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550 肩車
しおりを挟む「ちょいちょい弟がお父さんに肩車をせがんで困っている」
そんな話をしたのはリョウコちゃん。
彼女には幼稚園のやんちゃ盛りの弟がいる。
小さいうちは肩車を喜ぶ子が多い。もちろん高いところをイヤがる子もいるけれども。リョウコちゃんの弟は喜ぶ派。
小さな子を担ぐくらい、大の男ならば造作もなかろう。
そう思えるかもしれないが、ちょっと考えてみて欲しい。
ニ十キロのお米の袋を担いで、ヒンズースクワットをしている光景を。
子どもを肩に乗せるとはそういうこと。しかも落としたらとんでもないことになるから、プレッシャーが半端ない。あげくにしっかり掴まってくれないから、グラグラ。
肩、首、膝、背中、腰……、全身に深刻なダメージを与えかねない。必殺の破壊力を秘めたモノ、それが肩車の正体。
子どもが無邪気に「ねえ、お父さーん」と円らな瞳にて上目遣いでおねだりするたびに、お父さんは内心でビクついている。怯えている。
「あー、肩車かー。わたしもわりとねだった口かな。さすがに目の前でお父さんが腰をギクリとやったのを見て、それ以来、一切口にしなくなったけど」
そう言ったのはチエミちゃん。容姿、能力、その他もろもろが平均値に収まる彼女。それゆえにチエミちゃんを基本とすれば、何事も安泰なことから教師たちから裏で「偉大なる凡」と呼ばれている子。その思考は極めて安定志向。
「私はあんまり記憶がないかなぁ……。よく抱き上げられたりはしていたけれども。ほら、頭頂部って何かとデリケートな問題がはらんでいるでしょう?」
クラスのオシャレ番長アイちゃんの言葉。彼女の家はファッション一家にて、幼い頃より身近にいる大人たちもその業界の関係者ばかり。髪型一つにも神経を使っている。うかつに子どもに触られたら、たいへん。あとはオプションパーツが装備されてある可能性も否定できない。気にする人は、とても気にするから。ゆえにデリケートと表現を濁すアイちゃんは、とってもおしゃまな子。
「わたしは、もう卒業した。……というか、飽きた」
ぼそりと漏らしたのはミヨちゃん。
彼女の家には父以外にも二人の兄がいる。この兄たちが、まぁ、末妹を猫可愛がりしている。世にいうところのシスコンである。
二人の兄たちは妹を振り向かせようと、昔からあの手この手で過度の接触を試みる。
肩車なんぞ競って、延々と妹を取り合いつつ続けたこともある。
幼くして兄たちの手により散々に空を行き来したミヨちゃん。さすがにゲンナリ。
そして話は五人目のヒニクちゃんの番に。
極端に無口にて一日平均百文字前後で過ごす彼女は、ただひと言。
「肩車キライ」
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筋骨隆々にて未来から来た殺人サイボーグとの異名を持つけど、
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……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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