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545 パキラ
しおりを挟む学校の教室。その後ろの方で飼われているものといえば、ハムスターやらメダカやらがメジャーどころ。
だがミヨちゃんの通う小学二年生の教室にはいない。
かつてハムスターがいた時期もあったのだが、モフモフ系との相性が最悪のミヨちゃんが撫でられたのは、亡くなって埋葬するときだけ。
あまりにも悲劇!
あまりにも哀しい!
あまりにも切ない!
ファーストコンタクトがラストコンタクトにて、幼女が「わたしはダイジョウブだから」とつぶやきながら、精一杯の笑顔を見せる。
もう、涙なくしては観ていられない。
目の当たりにしたクラスメイトたちは、以降、教室で恒温動物を飼育することは断念した。
で、金魚にチャレンジするも、これはこれでたいへん。
なにせ水の入った水槽はとっても重い。小学二年生の腕力では手にあまる。ならば仲間と協力だ! とチカラを合せるも、うっかり落としてガッチャン。
幸いなのことに教室の床に投げ出された金魚たちは、どうにか救助されて、以降は中庭の池へと居を移すことになった。
ザリガニにもチャレンジしたが、共食いすることを知らずに「一匹だとさみしいだろうから」と余計なお世話をした結果、地獄絵図が展開。
幼子たちの心に深い傷と教訓を刻みつける生きた教材となって、天国へ……。
男子たちが校庭の片隅で捕まえたイモリだかヤモリだかを飼おうと試みたこともあったが、次の日にはあっさり逃げ出し、どこかに消えてしまっていた。
昆虫好きの子がカブトムシの幼虫を持ち込んだこともあったが、ソレは女子たちからの猛烈な反対にあって、すぐに撤退。
中秋の名月の頃、ヨーコ先生が気を利かせて鈴虫を持ち込んだこともある。
リンリンと愛らしい音色にてみんなを喜ばせるも、じきにイライラへとシフト。どんな名曲も延々と繰り返してはさすがに飽きてしまう。あげくについにはザリガニと同じような結末を迎えて、一部の男子とあらかたの女子たちの虫嫌いを加速させることに。
こんなことを繰り返すうちに「どうにも生き物が居着かない教室」などという、不名誉なあだ名をつけられるように。
教師間でもウワサになっており、担任のヨーコ先生は「こいつはちょっとマズいぞ。また教頭先生に叱られる」と戦々恐々。
そこでこの悪名を払拭すべく、打開策を教え子たちと考えることにした。
「そんなワケだらか、みんな、先生を助けて!」
いっしょに考えようとか言いつつ、ほぼ丸投げ。
恥じも外聞もなく全力で子どもにすがる大人の女。その姿を前にして、子どもたちは呆れつつも、逆に「ここは自分たちがしっかりしなきゃダメだ」と自立心がムクムク芽生えて、一致団結。
クラス総出で知恵を出し合う。
問題点は二つ。
その一。ミヨちゃんがいるのでモフモフ系はダメ。
その二。ミヨちゃんがいるので昆虫系もヤバイ。
なにせミヨちゃんはモフモフ系からは蛇蝎のごとく嫌われるかわりに、昆虫女王の異名を持つほどにムシたちからは愛されまくっている。たぶん彼女がその気なれば、地球の勢力図がガラリとかわり、万物の頂点が入れ替わるかもってぐらいに愛されている。
ただ惜しむらくは、ミヨちゃんがあまり虫が好きじゃないこと。
小動物がダメ。昆虫類もダメ。魚はたいへん。
もう、いっそロボット犬でも飼うか? なんて意見も出始めたところでヒニクちゃんが満を持しての登場。おもむろに口を開く。
「そんなときこそパキラがおすすめ」
育てやすく、親しみやすい大きな葉っぱの観葉植物。
発財樹とか記念樹の愛称で広く知られているもの。
花言葉は「快活」にて財運招福。動物も植物もみんなみんな生きている。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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