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543 洗車
しおりを挟む校長先生が愛車にホースで水をかけていた。
故意ではないが、学校という場所柄ゆえに、たびたび子どもたちからの災いに晒される車。
サッカーボールをぶつけられたり、野球のボールをぶつけられたり、蹴飛ばした石をぶつけられたり、松ぼっくりを投げつけられたり……。
あとは、たまにカラスが屋根の上てタップダンスを踊ったり、日向ぼっこをしていたノラネコがシャーっと爪を走らせながら滑り降りたり、飼育小屋を脱走したパッソの直撃を受けてドアがへこんだり……。
けっこう踏んだり蹴ったりな目にあっている愛車。
だが校長先生はその都度、修理に出して、けっして見捨てることはしない。
やさしい手つきにて、洗浄をしている校長先生。
とっても熱心にて、自分の頭のようにピカピカにしようとしているかのよう。
その姿を遠目に眺めていたのはミヨちゃんとヒニクちゃん。
昼休みのことである。学校で自分の車を洗っていいの? なんぞという野暮は言わない。
休憩時間にちょっと息抜きをしているだけ。
いくら教頭のシフジアカネ女史と比べたら影が薄々だとはいえ、立場上、相応の仕事はこなしているのだから。
「熱心に洗っているねえ」感心しつつもミヨちゃんは言った。「でも、洗ってもすぐに汚れちゃうんだよね。車って」
大陸より飛んでくる砂が社会問題化して久しい。
自然現象にて、やむを得ないとはいえ、けっこうな量。
車なんて、ほんの数日でうっすら細かな砂が積もっちゃう。
ましてや学校にはグラウンドがあるので、風が吹けば砂成分も倍増。
「男の人って洗車好きが多いっていうけれども、なんでだろう……。家の手伝いとかさっぱりなのに」
洗車にかける情熱をお風呂やトイレ掃除に傾けてくれたら、きっとピカピカ。
そもそも汚すのは圧倒的に男性の方なんだし、むしろやれ! とかミヨちゃんは思っている。だが現実には大半のご家庭でお母さんがブツブツ文句を言いながらがんばっている。「もう、なんでこんなに飛び散らかすのよ」とか「もっとキレイに使いなさいよね」とか言いながらも、がんばっている。
「わたしなんかは、ガソリンスタンドに置いてある大きな洗車機? でガーッとやっちゃった方が速いし安上がりだと思うんだけど」
洗車機を使えば一回千円ぐらいで、十分足らずで、洗車にワックスがけまで。
でも自分の手でやると、道具一式そろえるだけでウン千円。洗車場に出向けば更に費用がかさむ。たとえ家の前で行っても水がだぼだぼ垂れ流し。あげくに数時間はかかりっきり。
無駄、むだ、ムダのオンパレード。
みたいにミヨちゃんには感じられてしかたがない。その分のお金と時間と労力を家庭に向けろと声を大にして幼女は叫びたい。
「そこんところ、世間の殿方たちはどう考えているのかなぁ」
ミヨちゃんが自問自答の末に可愛くコテンと首をかしげたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「洗車好きは彼女を大事にするという都市伝説がある」
車好きが高じての洗車好きは、基本的に車第一主義にて自己中。
単なる道具と考える人は、愛着が薄いから扱いもそれなり。
外だけでなく中も汚すような人は、マジでヤバイかも。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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