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537 迷子

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 手を繋いでいるミヨちゃんとヒニクちゃん。
 週末におばあちゃんとやっこ姉さんに連れられて、郊外に新しくできた大型アウトレットパークへ繰り出す。
 たくさんのお店、たくさんの商品、たくさんの人。
 欲しいモノがたくさんにて幼女、目移りしまくり。
 人混みの中で、ただでさえちんまい二人がそんなことをしていれば、当然ながら大人とはぐれる。
 散策一時間ほどにて、見事に迷子になったミヨちゃんたち。
 とはいえ万一のときの集合場所はちゃんと決めてある。

「背の高い時計がある広場にて救出を待て」

 その指示に従って早速、広場を目指すミヨちゃんとヒニクちゃん。
 ほどなくして目的地に到着。
 あとは救助を待つばかり。
 が、その段になってようやく気がついた。二人の横に小さなオマケがくっついていることに。
 幼稚園ほどの女の子。
 それが何故だかミヨちゃんのスカートの裾をしっかりとつかんで離さない。
 事情を聞いてみれば、どうやら自分の姉と同じような柄のスカートだったらしく、うっかり間違えてしまったみたい。
 とどのつまり、迷子の迷子である。
 ヒニクちゃんがササッと女の子の体を検める。しかし名前や連絡先など、身元を示すような品は一切、身につけてはいなかった。
 かつてはマジックであちこちに名前を書いたり、個人情報を記載したモノを服の裏に縫い付けたりしていたものだが、それも今や昔のこと。
 おしゃれな衣服や小物にそんな無粋なマネはしないのだ。

「これは困ったねえ。迷子センターに連れていくのが正解なんだけど、そうするとわたしたちまで、えらい目に合うかもしれない」

 ミヨちゃんが心配するのは、キレイなお姉さんによる場内アナウンス。
 最近ではいきなりフルネームを連呼するようなことはないものの、それなりに身体的特徴などが喧伝され「こんな子がいますよー」という風に知らされる。
 これって聞く人が聞けば「あぁ」とピンときちゃうから困りもの。
 なにせこれだけの人の集まりにて、同じ学校の子や知り合いがいる可能性が高い。
 後日、「ねえねえ、ミヨちゃんってば迷子になってなかった?」とか言われたら赤面ものにて、乙女赤っ恥。それだけはなんとしても避けなければならない。
 とはいえ、まだ小さな女の子をいつまでもいっしょに連れておくわけにもいかない。

「せめてヒロ兄かタカ兄がいっしょだったら、肩車でもしてこの子のお母さんを探してもらえたのに」とミヨちゃん。

 あいにくと小学二年生が肩車をしたところで、高学年の小学生にも劣る。ちっとも役に立たないどころか、膝と腰が悲鳴をあげるばかり。
 目立つように最寄りのベンチの上に立たせたところで、同じこと。

「うーん」悩むミヨちゃん。いま彼女の中では天使と悪魔がガチで殴り合っている。

「我が身可愛さで女の子を悲しませるなんて、この人でなし」と天使が右ストレート。
「小さな善意の見返りが、一生モノのトラウマとか割に合わないんだよ」と悪魔がハイキックからの変則カカト落し。

 悩める幼女はくせっ毛である自身の頭をくしゃくしゃ。
 そして決断する。

「よし、迷子センターへ行こう。女は度胸、死なばもろともだよ」

 覚悟を決めたミヨちゃん。「いくぜ!」と颯爽と歩きだす。
 その眩しい背中を見つめつつ、ヒニクちゃんがおもむろに口を開く。

「子どもが迷子になるのではない。親が目を離すのが悪い」

 いろいろ出来て、知識も経験も豊富な大人。
 なにもかもが未熟にて、よちよち歩きの子ども。
 ほら? どっちがより気をつけるべきかなんて一目瞭然じゃない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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