537 / 1,003
537 迷子
しおりを挟む手を繋いでいるミヨちゃんとヒニクちゃん。
週末におばあちゃんとやっこ姉さんに連れられて、郊外に新しくできた大型アウトレットパークへ繰り出す。
たくさんのお店、たくさんの商品、たくさんの人。
欲しいモノがたくさんにて幼女、目移りしまくり。
人混みの中で、ただでさえちんまい二人がそんなことをしていれば、当然ながら大人とはぐれる。
散策一時間ほどにて、見事に迷子になったミヨちゃんたち。
とはいえ万一のときの集合場所はちゃんと決めてある。
「背の高い時計がある広場にて救出を待て」
その指示に従って早速、広場を目指すミヨちゃんとヒニクちゃん。
ほどなくして目的地に到着。
あとは救助を待つばかり。
が、その段になってようやく気がついた。二人の横に小さなオマケがくっついていることに。
幼稚園ほどの女の子。
それが何故だかミヨちゃんのスカートの裾をしっかりとつかんで離さない。
事情を聞いてみれば、どうやら自分の姉と同じような柄のスカートだったらしく、うっかり間違えてしまったみたい。
とどのつまり、迷子の迷子である。
ヒニクちゃんがササッと女の子の体を検める。しかし名前や連絡先など、身元を示すような品は一切、身につけてはいなかった。
かつてはマジックであちこちに名前を書いたり、個人情報を記載したモノを服の裏に縫い付けたりしていたものだが、それも今や昔のこと。
おしゃれな衣服や小物にそんな無粋なマネはしないのだ。
「これは困ったねえ。迷子センターに連れていくのが正解なんだけど、そうするとわたしたちまで、えらい目に合うかもしれない」
ミヨちゃんが心配するのは、キレイなお姉さんによる場内アナウンス。
最近ではいきなりフルネームを連呼するようなことはないものの、それなりに身体的特徴などが喧伝され「こんな子がいますよー」という風に知らされる。
これって聞く人が聞けば「あぁ」とピンときちゃうから困りもの。
なにせこれだけの人の集まりにて、同じ学校の子や知り合いがいる可能性が高い。
後日、「ねえねえ、ミヨちゃんってば迷子になってなかった?」とか言われたら赤面ものにて、乙女赤っ恥。それだけはなんとしても避けなければならない。
とはいえ、まだ小さな女の子をいつまでもいっしょに連れておくわけにもいかない。
「せめてヒロ兄かタカ兄がいっしょだったら、肩車でもしてこの子のお母さんを探してもらえたのに」とミヨちゃん。
あいにくと小学二年生が肩車をしたところで、高学年の小学生にも劣る。ちっとも役に立たないどころか、膝と腰が悲鳴をあげるばかり。
目立つように最寄りのベンチの上に立たせたところで、同じこと。
「うーん」悩むミヨちゃん。いま彼女の中では天使と悪魔がガチで殴り合っている。
「我が身可愛さで女の子を悲しませるなんて、この人でなし」と天使が右ストレート。
「小さな善意の見返りが、一生モノのトラウマとか割に合わないんだよ」と悪魔がハイキックからの変則カカト落し。
悩める幼女はくせっ毛である自身の頭をくしゃくしゃ。
そして決断する。
「よし、迷子センターへ行こう。女は度胸、死なばもろともだよ」
覚悟を決めたミヨちゃん。「いくぜ!」と颯爽と歩きだす。
その眩しい背中を見つめつつ、ヒニクちゃんがおもむろに口を開く。
「子どもが迷子になるのではない。親が目を離すのが悪い」
いろいろ出来て、知識も経験も豊富な大人。
なにもかもが未熟にて、よちよち歩きの子ども。
ほら? どっちがより気をつけるべきかなんて一目瞭然じゃない。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる