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535 角
しおりを挟む「ピンポンパンポーン、二年生のコヒニクミコさん、至急、職員室まで来るように」
昼休みのこと。
校内放送にて担任のヨーコ先生から呼び出されたヒニクちゃん。
これには周囲にいたミヨちゃんたちも、ギョッとなる。
呼び出しを喰らうようなマネは身に覚えがないというから、次に想像したのは身内のトラブルとか、それも事故とか病気とか不吉なもの。
「すぐに行ったほうがいいよ。というか、わたしもついて行くよ」
友のピンチに寄り添わずして、何が親友か。
鼻息荒くミヨちゃんが腰を上げたところで、またしても「ピンポンパンポーン」とお知らせの合図。
「あー、言い忘れたけどヤマダミヨさんはついてきちゃダメだから。いいわね。じゃあ、そういうことで」
いきなり名指しで同行を拒否されたミヨちゃん。「なんでー!」
これにはアイちゃんやリョウコちゃん、チエミちゃんも首を傾げるしかない。
「ミヨちゃんがダメって、どういうことかしら?」とアイちゃん。
「わざわざ念押しするって、よっぽどだよね」とリョウコちゃん。
「っていうか、フルネームで『来るな』とか、ヨーコ先生、何げにひどくない?」とはチエミちゃん。
とはいえ、ここでいくらぐだぐだ考えていても答えなんて出るわけもなく、とりあえず呼び出されたヒニクちゃんは一人、職員室へと向かう。
ミヨちゃんは遠ざかる友の背中を忸怩たる想いにて見送るしかなかった。
で、担任の先生からの呼び出しに応じたヒニクちゃん。
彼女を待っていたのは、ボロボロになった繋ぎの作業服姿の若い男性二人。
「おー、待ってたよ。コヒニさん、ちょっとこの二人に協力してあげて」とヨーコ先生。
この二人、実は最寄りの牧場から派遣されてきた人たち。
何をしにきたのかというと、近頃、やや厳つさを増した飼育小屋の雄ヤギ、帝王パッソの角を切りにきた。いわゆる除角という作業。
とはいえ先っぽの方だけれども。
ヤギの角はシカのそれとはちがい、中には血液なんかも通っている。だから下手をすると痛みや出血、感染症の恐れもあるので、慎重に対処する必要がある。
基本的にヤギの角は威嚇用だから、放っておいて問題ない。
けれどもパッソはわりとガチで頭突きをするから、せめて尖っている部分だけでも処理しておこうという話に。
それゆえに専門家へ依頼したのだが、この調子では手痛い歓迎を受けてしまったらしい。
なにせパッソは年少の子らには手加減をするけれども、高学年や大人にはドカンといくから。
「わたしが行ってもいいんだけど、パッソがますます興奮するだけだろうし。そうすると頭に血がのぼってピューッとかなったら困るから。あなたの言うことならあの子も大人しく聞くから、お願い」
ヨーコ先生に頼まれたヒニクちゃん、そういう事情ならばとうなづいた。
なんにせよ身内の大事とかでなくて良かったと、ほっとひと安心したところでおもむろに口を開く。
「ヤギもメェ―。ヒツジもメェー。ちがう動物が同じ鳴き声。これってちょっとすごくない」
ヤギはウシ科ヤギ亜科ヤギ属の動物。
ヒツジはウシ科ヤギ亜科ヒツジ属の動物。
見分け方は色々あるけれど、とりあえずヤンキー気質がヤギ。
温厚で大人しくて臆病なのがヒツジと覚えておくといい。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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