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533 落選
しおりを挟むミヨちゃんとヒニクちゃんは自分たちの迂闊さを後悔していた。
知り合いの大学生のお姉さんが、公園のベンチで黄昏ている姿を目撃。
若い娘が池の畔で、ぼんやりと野鳥を眺めてはタメ息。
そんなシチュエーションを前にすれば、誰だってピンときて「あのことで悩んでいるのね!」となる。
少女マンガ大好きのミヨちゃんとしては、こんな美味しそうなごちそうを前にして、見て見ぬふりなんてとてもできやしない。
で、「どうしたの?」と声をかけたのが地獄へと通じる第一歩だった。
ヤマダ宅の近所に住む大学生のお姉さん。
眼鏡女子にて図書館の常連。傍目には文学少女のごとき。胸はちょっと大きい。
思春期真っ盛りの若い男子からしたら、ドキドキワードな存在ながらも、あいにくとミヨちゃんの二人の兄たちはピクリとも反応せず。
なぜならその本性を知っているからだ。
確かに彼女は本好きだ。でも内容がアレでソレで、ガチガチでムチムチのガテン系でファイト一発なのを特に好む。
まぁ、趣味は人それぞれにて別に好きにしたらいい。
で、そのお姉さんは好きが高じて趣味で小説を書いては、せっせと小説サイトに投稿している。
コンテストなんかにも応募しているらしく、けっこう気合を入れて精力的に活動している。
人気は内容にやや偏りがあるので一般受けはさっぱりながらも、一部熱狂的な信者らに支えられており、深夜にこっそり届く応援コメントを励みにがんばっているという。
そんなお姉さんがタメ息を連発。
原因はコンテスト。
「またダメだった……。順位はけっこう上位につけていたから、せめて奨励賞ぐらいはと期待してたんだけど、さっぱり」
誰かに認められる。それはおおいなる自信に繋がり、パワーの源になる。
でも自分が心血を注いだ作品が認められない。これは逆に自信の喪失へと繋がる。はじめのうちこそは「こなくそ、いまに見てろよ」と反骨精神旺盛にて、へこたれることなくがんばっていた。
でも人の心は固くもなれば脆くもなる。
いろんなことが重なってちょっと弱っているときに、ダメージが重なると、ふいに心が萎んでしまう。ペキリと折れてしまう。
現在のお姉さんがその状態だった。
「書けば書くほどに正解がわからなくなっていくの。もう、どうしたら……。やっぱりあそこは強引に責めさせるべきだったか。しかし作風が」
なにやら真剣に悩んでいる様子。
先ほどから謎めいた言葉を呪文のごとくぶつぶつ。
挙句に「どうしたらいいと思う?」とか聞かれて幼女たち困惑。
これを前にしてミヨちゃんとヒニクちゃんは、もう、どうしていいのかわからない。
うっかり他人の悩みなんぞに首を突っ込むべきではなかったと、ミヨちゃん涙目。
これを見てヒニクちゃんは覚悟を決めて、こう告げた。
「我を通して苦しむか、大衆に迎合して苦しむか。創作の道は二択しかない」
やりたいようにやって、楽しみながら結果が出せれば理想的。
だけどそれが可能なのは、きっと一握りの天才のみ。大多数が悩んで欝々。
でも忘れないで、淀んだドロ沼の底から生まれる作品もあるということを。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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