ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

528 カバン

　
　いつものようにミヨちゃんとヒニクちゃんが仲良く下校をしていたら、堤防沿いのところで人だかりを発見。
　何ごとかと思って近寄ってみたら、背後からサイレンの音がどんどんと近づいてくるのが聞えた。

「パトカーだ。こっちに来るよ。なんだろう、またオッサンがヤンキーをぶっ飛ばしたのかな」

　ミヨちゃんがオッサンと呼んだのは、やっこ姉さんの弟のこと。
　わりとマジでラストサムライなオッサンは腕っぷしがとっても強い。剣をとっても無双だが、素手でもヤンキーの集団を一蹴するほどの猛者。
　まぁ、それはそれとして困ったおじいちゃんでもある。
　堤防、川原、パトカーとくれば、即オッサンと言うぐらいには、地元で認知されつつあるから、てっきりそうかと考えたミヨちゃん。
　しかしそれは早合点だった。
　なにせ野次馬から聞こえてきたのは、もっと不穏なことだから。

「なんでもバラバラ死体らしいよ」
「カバンから腕がはみ出していたとか」
「上流の方で沈めていたのが、この前の雨で川が増量して」
「重しを入れても浮かんでくるんだとか聞いたことがあるぞ」
「うわぁ、怖いわねえ」
「猟奇、猟奇、うひひひひ」
「大事件だわ！　あらいやだ。お化粧を直しておかないと」
「そうね。きっとテレビとかマスコミが押し寄せるはずだから」
　
　一部、どうでもいい情報も盛り込まれていたが、漏れ聞こえてきた内容からして、カバンに入ったバラバラ死体が発見されての、この騒ぎらしい。

「うーん、オッサンじゃなかったか。でも素直によかったと言えないところが、悩ましい」とミヨちゃん。
　知り合いが事件に関与していなかったのはいいけれども、犠牲者がいるとなるととても喜ぶ気分にはなれない。

「それにしたって、誰がこんなところに。上流ったってダムとかがあるわけじゃなし、上に行くほどむしろ浅くなっていくのに」

　首を傾げるミヨちゃん。うっかり落とすような荷でもなし。
　お母さんとこつこつ視聴を重ねてきた二時間サスペンスドラマでならした知識を総動員するも、あいにくとドラマでは出演者の顔ぶれを見ればだいたい犯人がわかってしまうから、実戦ではまるで役に立たない。

「っていうか、わざわざ苦労してバラすくらいならば、最後の最後で横着することないよね？　どうしてそこまでがんばって、捨てるところだけ手を抜くかな。せめて散らせよ」

　なぜか犯人側の心理に立って考えだしたミヨちゃん。
　これにはヒニクちゃんがちょっと困り顔。
　幼女らが野次馬に混じって「あーでもない」「こーでもない」と勝手な憶測を繰り広げていたら、じきにお巡りさんたちが川の中にじゃぶじゃぶ。
　そして例のかばんを拾ってきたのだけれども、なにやら様子が……。
　ここでおもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「ほっ。どうやら本物じゃなかったみたい。アレは人形っぽい」

　人形と言っても、いろんな種類がある。中には等身大のモノも。
　でも大きな奴って処理に困るのよね。たまにゴミ捨て場でヘアーカット用の
　頭部モデルを見つけたらドキリとなるし。なお我が家はまとめて焼却処分。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。

※ヒニクちゃんのお母さんは売れっ子人形作家。家には人体模型っぽいのがうようよ。