ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

527 ぶどう

　
　給食のデザートにブドウが出た。
　鮮やかな紫色にて、ぷりぷりした粒が大きなモノが、一人三個。
　地元の農家さんからの「食育にどうぞ」という、ありがたいご厚意によるもの。
　もしもお店で買えば、ひと房軽く千円は超える。
　それを考えれば、とっても太っ腹な話。
　タネはないけれども、皮は食べられない。
　いや、食べられないわけではないが、ちょっとしっかりしており、噛み切るのがたいへん。あとくちゃくちゃしている内に、口の中が渋くなってしまう。
　だから女の子たちは、丁寧に皮をむいてお上品にパクリ。
　だけれども男の子たちは、一人が「そんなちまちました食べ方、やってられっか」と丸ごとムシャムシャ。すると他も「おれも、おれも」と競うようにしてワイルドに食す。
　それを尻目にミヨちゃん、「あーあ、せっかくの甘味が台無しになるのに」と呆れる。

「男子って、たまにどうでもいいことで張り合うよね」とはチエミちゃん。
「男らしいと粗野はちがうのに」とはアイちゃん。
「まぁまぁ、あんなもんだって」とはリョウコちゃん。手のかかる弟が身近にいるせいか、スポーツ少女だけは男子にわりと寛容。なのに男子たちは、そんな唯一の理解者に対して「やーい、男女」とか言っちゃうから困ったもの。
　それすらも苦笑いで受け流すリョウコちゃんは、とってもいい子。

　お淑やかに季節の味覚を味わっていた女子たち。

「あっ」と小さな声をあげたのはミヨちゃん。

　みんなが「どうしたの？」とたずねたら、ぺろっと舌を出して吐き出したのはタネ。

「タネなしだっていってたのに、タネがあった」

　固さは知れているので噛んだところで、歯がどうにかなるわけじゃない。詰め物が欠けることもない。とはいえ口の中に異物があると、ちょっと食べるのに躊躇してしまうもの。
　おかげでミヨちゃんのテンションがわずかに下がった。

「ぶどうは、わりと多いわね。シードレスでもちょいちょい見かけるから、皮ごと食べられるヤツでも油断がならないのよねえ」

　ティッシュを差し出しながらアイちゃんが語る。

「でも小さいツブツブのやつは、タネなんてないよな？　あれってどうなってるだろう」

　リョウコちゃんがふと思い出したように口にする。
　これにはみんなで頭を抱えることになる。
　あの甘酸っぱいちまちました品種デラウェアを想像し、「うーん」
　子どもたちの知識量には限界がある。
　そこで身近な大人に頼ることにしたミヨちゃんたち。

「せんせーい」と声をかけた。

　そしてヨーコ先生はこう答えた。

「あー、たしかジンベエとかいう汁につけたら、受粉なしで膨らんだんじゃなかったかな」

　ジンベエ？　水族館のアレかしら。その汁？　えーと……。
　受粉は……、ミツバチたちががんばることだっけ。
　膨らむ？　風船みたいにプクーっと。
　先生の言葉にて、頭にハテナマークを浮かべた幼女たち。
　これを見かねて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「正しくはジベレリン液」

　植物ホルモンの総称にて、種子の発芽や老化抑制に関与。
　種なしになりやすいのと、なりにくい品種がある。
　その分手間がかかるので、値段が高いヤツほど後者の傾向が強い。
　でもじつはタネがある方が糖度が高く粒も大きくなるんだとか。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。