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525 レター

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 クラスの女子の中で、空前絶後の手紙ブームが勃発。
 仲のいい子に、可愛い便せんに可愛い文字で綴った手書きのお手紙を、可愛い封筒に入れて、可愛いシールで封をして「はい」っと渡す。
 内容は他愛もないもの。
 なにせほぼ毎日、顔を合わせてせている間柄にて、経験していることもほぼほぼ一緒。
 まぁ、ごっこ遊びの延長なのだけれども、うれしい誤算も生じる。
 人に見せるための文字を書く。
 否が応でも上がる筆力! とくに幼子は夢中になると、とんでもない集中力を発揮してのめり込む。結果としてみんなの文字がぐんぐんキレイに!
 しかし加熱するブームの裏では困った現象も……。

 可愛いお手紙をもらったら、お返事を書かなければならない。
 そのためには可愛い一式を用意する必要がある。
 当然ながら、貰ってうれしいモノとそうでないモノの差が如実にあらわれた。
 ダントツ人気はアイちゃんのお手紙。
 フランスの風をどこか感じさせるトレビアンな一式は、おしゃれ番長のセンスが爆発する美麗さにて、女の子たちはこぞって彼女にお手紙を渡す。おかげで返事を書くのにアイちゃんは四苦八苦。
 それを尻目にまったく人気がないワースト一位はヒニクちゃんとリョウコちゃんの二人。
 ヒニクちゃんは、基本的にミヨちゃんを最重要と位置づけており、それ以外は、わりとおざなり。まさかの業務用一式での応対にクラスの女の子たちが「えー」
 しかしコンプリートを目指すために、とりあえず一通はやり取り。
 そしてスポーツ少女のリョウコちゃんは、単純に可愛い系のお手紙一式セットを揃える気がさらさらない。封筒だけはそれっぽいのを用意して、中身は学校のコピー機で済ますという横着が祟り、ワーストを冠することに。
 リョウコちゃんは「なっとくいかねえ!」とゴネたが、女子一同から首を揃って振られて、甘んじて受け入れるしかなかった。

 手紙ブームが加熱を通り越して、過熱となりだすと、更に問題が起こる。
 便箋も封筒もシールも、文面を彩るカラーペンも、どれもこれもタダではない。
 可愛いモノには可愛い分だけお値段が張る。
 小学二年生ゆえに、それらの出費はすべて親の財布に頼ることに。
 始めのうちは子どもたちの遊びを「あらあら」と見守り「お母さんもお手紙欲しいなぁ」とか笑っていた母親たちも、次第に表情が引きつるようになっていく。
 かといって母親が娘に「家計が苦しいから止めなさい」とは口が裂けても言えない。
 そこで困った母親たちは相談の上で、教師に丸投げした。
 個別にやると手間がかかるので、教室にて先生からガツン! と言い聞かせてやってとのこと。
 これには担任のヨーコ先生も渋面。
 ようは嫌われ者の役目を押し付けられたようなものだから。
 しかし親御さんらの機嫌を損ねるのは、身の破滅をもたらしかねない。
 そこで大人の選択をしたヨーコ先生は、授業終わりのホームルームで、こう言った。

「これ以上、みなさんがお手紙を続けると、どんどんと先生のところに不幸の便りが届いて、アップアップになるから、もうヤメるように」

 察しのいい女子連はこれで、すべてを悟った。
 それにそろそろ自分たちも、ちょっと……と考えていたところにて、ヤメ時を模索していたところ。渡りに船とばかりに、「はーい」と元気よくお返事。
 かくしてブームは大人の事情により終焉を迎える。
 これをワーストの地位から冷静に見つめてたヒニクちゃん。おもむろにぼそり。

「ヤメ時がムズカシイものって、けっこうあるよね」

 年賀状のやりとり。もうメールでいいよね。
 お中元、お歳暮のやりとり。この頃、たんなる生存確認になっている。
 貰ったら返すのが礼儀。でもそれゆえに延々と。お付き合いってムズカシイ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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