上 下
522 / 1,003

522 一日署長

しおりを挟む
 
 消防署とか警察署で実施される催し。
 芸能人とか、著名人とか、地元縁の人とかを招聘して、一日だけ署長に就任してもらう。
 まぁ、だからどうしたと言えば、それまでなのだけれども。
 正直なところやる意味もよくわからないのだけれども。
 挙句に、後日、その呼んだ人が事件とか起こしちゃって世間を賑わせると、とんだとばっちりとか受けちゃうかも、なんだけれども。
 とりあえず来てもらったからには、防犯キャンペーンとかを展開し、世間に広く宣伝しつつ、啓発活動に勤しんでもらう。

「でも、これって署長さんってよりも、どちらかというのマスコットに近いよね。いや、むしろ着ぐるみレベル?」

 交番脇に設置された掲示板にて、今年の一日署長に誰が来るのかが書かれた、お報せポスターを眺めていたのは下校途中のミヨちゃんとヒニクちゃん。

「ドラマとかマンガとかなら、一日署長になったヒロインがバリバリ大活躍して、事件を解決! とかやっちゃうんだけど、実際にはたぶん何もさせてもらえないよねえ」

 少女マンガとサスペンスドラマ好きのミヨちゃん。
 わりとありがちなシチュエーションにて、「ついでに現場のイケメン刑事とかといい感じになっちゃうんだよ」と説明する。
 その話に黙って耳を傾け続けるヒニクちゃんは、じーっと告知ポスターを眺めている。

「あと、一日署長がいる間って、本当の署長さんはどうなってるのかなぁ。やっぱり降格? それとも名目だけで実際にはただのポーズなのかなぁ。でもお巡りさんがインチキ表示とかしちゃうのはいいのかしらん」

 一日署長と名乗っているのに、それはウソ。
 すなわち署をあげて、世間さまを欺くなんて。
 幼心に微妙なところを突いて来るミヨちゃん。
 彼女の中ではお巡りさんは正義の味方。
 黒が白となるのはふしぎと好印象なのに、白がちょっと黒くなっただけで「えーっ」となるのが人の心のふしぎ。
 ヤンキー、たまたま子猫を助けて、ヒロイン胸キュン理論。
 好青年、ヒロインに執着するあまり、ヤンデレ化の法則。
 これらに抵触する事案を前にして思い悩むミヨちゃん。
 だからウソとかつかれちゃうと、好感度がダダ下がりに……。

「あっ! でも変身ヒーローとかも周囲には正体を隠して、ウソをついてるし、ガッカリするほどでもないか」

 ヒーロー、なんだかんだで結局バレるの理。
 これを思い出して、自身の中での正義と悪の折り合いをつけたミヨちゃん、自己完結。
 その姿を眺めて、「ふむ」と頷いたヒニクちゃんがぼそり。

「世間の反応が微妙だったときの痛ましさは、とても見てられない」

 呼ばれたから来てみたものの、あんた誰? 状態。
 女子アナとかマイナースポーツ選手とか、認知度が微妙なランクは危険。
 そんな状態でパレードの先頭に立たされ、商店街を練り歩くとか。
 あれは地獄。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...