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513 モデルルーム
しおりを挟むとある郊外にて週末に行われたのは、モデルルームのイベント。
今度、駅から徒歩五分ほどのところに建てられるマンション。
その部屋を模した建屋の見学体験会。
もちろん気に入ったら申し込みもできる。
着ぐるみが闊歩し、風船やらヨーヨー釣りやら、お菓子のクジなんかもあって、見学体験会に参加したら遊べる仕組み。
実際に契約せずとも見学するだけで、洗剤やらラップやらと、いろいろお土産が貰えちゃうというので、朝も早くから母親に駆り出されたのはミヨちゃん。
幼女を連れていくことによって、さも「子どもにせがまられたものだから」という建前を発生させ、「タダでラッキー!」という本心を隠す作戦。
乙女心ならぬ主婦心。
日常の忙しさにかまけているうちに、ズリズリとすり減る羞恥心。
いずれは臆面もなく堂々と手を差し出し「おくれ」と言える境地に達するのであろうが、いまはまだそこまでには至っていないミヨちゃんのお母さん。いや、果たして踏み込んでしまっていいのだろうか? 揺れ動く主婦。
歳の差はあれども同じ女性の身。なんとなくその複雑な気持ちがわかる娘は、幼いながらに察し、黙って母につき従う。
ただし、もちろん労働に見合うだけの対価はしっかりゲットするつもり。
そんなヤマダ家母子に巻き込まれる形にて参加していたのはヒニクちゃん。
仲良しのミヨちゃんが戦場へと向かうと言うのならば、ヒニクちゃんに拒む理由はない。
新築のマンションのモデルルームだけあって、施設内はどこもピカピカでゴージャス。
内装すべてが白を基調とした造り。
玄関だけで生活できそうな広さ。
バッテリーが投球練習をするのに十分な真っ直ぐにのびた廊下。
ありえないほどの開放的なリビング。
大きな窓から見える夜景はさぞや美しかろう。あいにくとここでは印刷されたシートで誤魔化されていたけれども。
無粋な仕切りや邪魔な柱を極力排したデザイン。
コの字型に配置されたキッチンは機能性バツグンにして、収納が多く生活感が表に出ない工夫が随所になされている。
トイレもお風呂も、当然ピカピカ。
共有スペースにはプールにジムに、自由に使える部屋やゲストルーム、他にもよくわからないモノがずらずら。
耐震性はもちろんのこと。二十四時間、管理人が常駐してくれるというし、警備会社と連携するので安心安全。
誰もが、「こんなところに住めたらなぁ」とおもわずつぶやかずにはいられない素敵物件。
もちろんその分、お値段もお高め。
ぶっちゃけ下手な一戸建てよりも高いぐらい。階層が上へと行くほどに、かなり上等な一戸建て住宅に匹敵する価格に跳ね上がる。
最上階なんて、もう、ゼロが増えすぎてクラクラしてよくわからない。
ひと通り案内された後。
大人たちは大人たちで小難しい話を始め、営業トークと愛想笑いにて鍔迫り合いを演じる。
それを横目に子どもたちは着ぐるみに連れられて、お遊戯エリアに向かった。
親の目が届かなくなったとたんに豹変する幼児たち。
着ぐるみはチビッコギャングどもに襲われ、ぼこぼこに。
しかし場が荒れることを予想していたミヨちゃんとヒニクちゃんは、集団からそっと距離を置くと、まずはクジを引きお菓子の詰め合わせをゲット。
続いて風船を受け取り、ササッと木陰に設置されてあるベンチへ避難した。
「ふぅ。コレで良し。あとはお母さんが雑貨詰め合わせを受け取れば、ミッションコンプリートだよ」とミヨちゃん。
二人はあえてヨーヨー釣りはスルーした。
あれに手を出すのは無知な素人のみ。
指にゴム紐を通し、水の入った風船をバンバン遊ぶのは楽しい。何が楽しいのかよくわからないけれども、ムキにならずにはいられない魔性の魅力がある。しかしそれゆえに調子にのっていると悲劇に見舞われる。
なにせ今回の品は縁日のプロたちが用意したモノではない。素人が見よう見マネでこしらえた水風船。そんなシロモノをバンバンするとか、無謀にもほどがある。
しばし眺めていたら、案の定、悲劇が発生。はしゃいだあげくに自分の服をびしゃりと濡らし、泣きわめく子ども。オロオロする大人たち。そして騒ぎは連鎖して、すぐに手に負えなくなっていく。
これを冷めた目で見ていたヒニクちゃんがぼそり。
「小さい子は感受性豊かにて、すぐに周囲の影響を受けるもの」
大きなお友だちを上手にあしらう夜の蝶たちがいるように、
小さなお友だちを巧みに扱いさばける保育のプロもいる。
バイト代をケチって、社員の片手間で済まそうとするから。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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