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 通学路にある小さな祠。
 中にはヘンな石が置いてある。
 ずんと昔に旅のえらい坊さんが彫った石の地蔵だったらしいのだけれども、みんなにてらてら撫でられるうちに、つんつるてんになってしまったという。
 いまでは、まぁ、ただの手頃な大きさの漬物石といった風情。
 下校のたびにその祠の前を通るミヨちゃんとヒニクちゃん。
 気が向けば手をあわせる。主にテスト前とか。
 たまにお供えモノもする。給食の残ったカチカチのパンとか。
 ときおり掃除もする。時期によってはどこぞより飛んできた落ち葉でわさわさだから。
 誰が面倒を見るとかではなくって、地域の人間がメインとなりつつ、みんながおもいおもいにお世話している地域密着型の信仰。
 そいつを眺めながらミヨちゃんが持ち出したのは、ある話題。

 とある地方の山奥にあるお寺。
 歴史は古いけれども無人にて、地元の人間とてほとんど近寄らないような場所。
 が、あるとき研究調査のためにこの地方を訪れていたえらい学者先生が、ひょっこり立ち寄る。そして中を見てたいそう驚いた。
 なにやらスゴそうな仏像が安置されていたから。
 見た目はのっぺりとしており、大きなお寺に併設されてある美術館とかで飾られてある像のような、煌びやかさは皆無。よく言えば「何やらおもむきがあって味わい深く」わるく言えば「へたくそ」
 よって地元民らも、総じて後者の意見。いちおうは祀られているから大切には扱っていたものの、それだけ。
 だが、えらい学者先生が大注目! となれば話が変わって来る。
 それで調べてみたら、やっぱりスゴかった。
 千年近く前の品にて、伝説の仏師が彫ったものだと判明。
 市場価値は計り知れない国宝級。
 降ってわいた幸運に、地元は大よろこび。「こいつを使って地域活性」とか考え盛り上がった。
 でも、すぐにテンションだだ下がりとなる。
 世間から注目を集めるということは、有象無象をも引き寄せるということ。
 話題に釣られて外部から押し寄せる連中というのは、とってもミーハーにて金は落とさないくせにマナーも悪いと相場が決まっている。
 トラブル続出にて、静かだった山間の寒村はすっかり様変わり。
 負担ばかりが増えて、じきに地元民らは悲鳴をあげた。
 そんな彼らを一番悩ませたのはドロボウの存在。
 お宝が無人の寺にて、無防備な状況で管理されている。まるで盗んで下さいと言うようなもの。「なんてバチあたりな」と憤ったところで、悪党はそれゆえに悪党たりえる。
 実際、数件の未遂事件が発生し、村ではオチオチ寝てもいられやしない。
 ついにはヒステリーとノイローゼで村がおかしくなり始める。
 これを見かねて助け船を出したのは、とある大学の研究室。

「3Dプリンターで本物そっくりのレプリカを作り、これを安置して、本物を美術館とかに預けてしまいましょう」との提案。

 べつに珍しい話ではない。
 某有名絵画とか、宝石とか、管理や手入れのために裏にしまっておいて、本物そっくりなフェイクを一時的に飾っておくこともあるから。
 が、ことは信仰に関することなので、ちとややこしい。
 村は賛成と反対で真っ二つに割れた。
 よかれと思ってした提案が争乱のタネとなってしまい、大学の研究室はオロオロ。
 賛成派は、貴重な仏像なのだからきちんと管理してもらった方がいいと主張。
 反対派は、ニセモノを祀るとは何事か! との論調を繰り返す。
 どちらの意見も間違ってはいない。だからこそずっと平行線にてまとまらない。
 そのせいで仲良しだった村の雰囲気も微妙にギスギスしだす。
 しかしこの状況を打破した者がいた。
 ドロボウである。
 村のドタバタぶりを尻目に、こっそりしめしめと企むも、村の自警団に見つかりボコボコにされて警察に突き出され事件は未遂に終わった。でもこのことがきっかけとなり、反対派も村の平和には変えられないと、しぶしぶ賛成に回ってくれたのである。
 かくして村にはレプリカが飾られ平穏が戻った。
 なんだかんだで結局、悪党に助けられた形となったのは、どうにも皮肉なお話。

 ……この話をし終えたミヨちゃんが言った。

「そもそも神さまとか仏さまの像に本物とかニセモノとかってあるの?」

 イワシの頭も信心から。
 ただの石ころだって、ありがたがって、拝む人がいれば信仰の対象になる。
 実際、ただ生えているだけの巨木や巨岩、山なんかも拝んだりしているし。
 神仏に真贋を持ち込む自体、どうなのよ? とミヨちゃんは言いたいわけ。
 この疑問を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「もっとも尊いのは、たぶん身代わりとなったモノ」

 当然のごとく安穏と守られるだけの骨とう品。
 歴史的価値うんぬん、市場価値うんぬんなんて知らない。
 何かを守ろうとする精神こそが、真に尊敬に値する。ナムナム。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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