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498 ビッグ
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でっかいことはいいことだ。
世はまさに大盛りブーム。
その流行に乗っかって、メーカーが悪ノリした結果、巷に放たれることになる品々。
通常の倍はあろうかというサイズの容器。
そのわりには値段は倍というほどでもない、消費者に優しい価格設定。
だけど味はなぜか激辛。
まぁ、これは商品が発売された時期に、ちょうど「激辛ブーム」も起こっていたから。
つまり悪ノリに更に悪ノリを重ねちゃったというわけ。
総カロリー二千オーバーのカップ焼きそば。
たまたま手に入れたコレを前にして、ヤマダ家の食卓は固まった。
通常サイズのやつは、家族みんな食べたことがある。味については一級品ではないがクセになるチープさにて、ふしぎとときおり無性に食べたくなるという、奇妙な魅力があるインスタント食品。
発売当初こそは「ばちもの」「二番煎じ」「まねっこ」「できそこない」などと酷評されたこともあったが、気づけば愛され続けてうん十年。いまではメーカーの立派な看板商品にすくすく育った。
とはいえ、このビッグサイズにはミヨちゃんをはじめ、女性陣は腰が引けた。
おばあちゃんは「濃いソース味で、胸やけしちゃうよ」
お母さんはカロリーを指差し「悪魔の食べ物」とののしった。
ミヨちゃんは単純に「さすがに食べきれない」と二倍半ほどのボリュームを前に尻込みする。
しかし男性陣は、なぜだかうれしそう。
お父さんは「男はチャレンジしてなんぼだろう」とわけのわからない冒険心を燃やす。
大学院生である長兄のヒロは「辛いのはあまり得意じゃないけど、さすがに喰えなくはないだろう」
高校生である次兄のタカは「楽勝、楽勝。いらないならオレの夜食にするから」と余裕しゃくしゃく。
女性陣がそんな男どもを心配して「とりあえず一つ作って見て、様子をみたら?」と忠告するも逆効果。
かえって「いいや、だいじょうぶ」と男たちはつまらぬ意地を張った。
そしてミヨちゃんらが止めるのも聞かずに、特大サイズのカップ焼きそばの調理に取り掛かってしまう。
びりびりビニールをはがされ開封。着々と準備を整え、ついにお湯が注がれてしまい、あとには引けない状況に。
そして五分後……。
お湯をたっぷり吸って膨れ上がった膨大なメンを前に、みな口をつぐんだ。
投入されるソースと激辛スパイス。ぐりぐり混ぜ混ぜメンに絡める。
室内の空気が一瞬で染め上げられ、刺激臭のせいで目がパチパチ。
「これはたまらない」とミヨちゃんがすぐさま窓を全開。
想像していたよりもずっとヤバそうな辛さ。
これを前にして男たちが顔をヒクつかせているのを尻目に、女たちの視線はとっても冷ややか。
大見栄を切った手前、引くに引けない男たちは、意を決して実食。
ひと口すすって、盛大にむせた父。
額より玉のような汗を滝のように滴らせる長兄。
早くも来ていたシャツがぐっちょりな次兄。
見た目そのままに、カップ焼きそばはとっても辛かった。よく見ればご丁寧にもメンにまで赤いツブツブが練り込まれてあるし。
激辛、その言葉を具現化するような味に男たちが「ヒー」
「あんまりムリしないほうが……」
心配したミヨちゃんがそう言うも、先ほどまでのやりとりの手前「もう、いーらない」とは素直に言えない男たち。
そして一番の年長者であるおばあちゃんは食べ物をムダにすることをいっとう嫌う。
このことをよく知るヤマダ家の男たちは、黙々と箸を動かし続けるしかなかった。
……というような出来事があったと語ったのは下校中のミヨちゃん。
お相手はいつもいっしょの仲良しのヒニクちゃん。
「いやー、まいったよ。ひと晩たってもリビングのニオイがまだとれないの。あんな品を世に送り出したメーカーもメーカーだけど、それに手を出すうちの男どももダメだね」とミヨちゃんは呆れ顔。
それを受けてヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。
「ビッグ、見栄、意地、どれも男心を刺激し狂わすキーワード」
ビッグになりたいと世の男たちは願う。
カッコ悪いところなんて見せられないと、見栄を張る。
負けてたまるかと意地を通す。なぜ踊らされていることに気づかない。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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