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「パラリラパラリラー」
「ブゥンブゥンブッブーン、ブンブブーン」
「ヴァラララ、ヴァラララ、ヴァラララ」

 午前中の教室に突如として鳴り響いたエンジン音。
 なにかとおもって、みんなが窓際に行ってみると、そこにはヘンテコな形をしたバイクの集団が正門前にてブイブイいわせていた。

「うわっ、ダッさ。いまだにまだあんなのあるんだ。懐かしい」とヨーコ先生。
「あれもデコってるっていうのかな?」と首をかしげたのはミヨちゃん。
「いや、アレはちょっとちがうだろう」と異を唱えたのはリョウコちゃん。
「なんだか走る門松? もしくはクリスマスツリー?」との感想を口にしたのはチエミちゃん。
「特攻服? だったかしら。けっこう高かったかと。それにあんなのでも改造にはけっこうなお金がかかってるはずよ。なのにあんな乗り方をしたら、すぐにバイクがダメになって修理費がかさむとおもうんだけど」とアイちゃんが理解に苦しむとばかりに、「うーん」とうなる。
「維持費がかかる」イコール「お金持ち」と考えたミヨちゃんとチエミちゃんが、ちょいと窓より身を乗り出して、ガン見。
 でもしばらくしてから「アレはないね」「うん、いくらお金持ちでもアレはない」と二人。
 ツッパリ全開リーゼントはともかくとして、紫に染めているのは微妙。
 ミヨちゃん的には「おばあちゃんの色」との認識ゆえに。なぜだかお年寄りは、普通の金髪では満足せずに、けっこう冒険しちゃうのだ。
 するとヨーコ先生が「アレが金持ってるわけがないだろう。連中はああ見えて、わりと裏ではせっせこバイトに励んでたりするんだよ」と言った。

 人を見かけで判断してはいけない。
 いいこと言ったとヨーコ先生は胸を反らせるも、子どもたちはもう一度、外ではしゃいでいるお兄さんお姉さんたちをチラ見して、「ないない」と結論づけた。
 それにしても連中はいったい何がしたいのだろうかと、子どもたちはとってもふしぎ。
 中学校や高校ならばともかく、小学校の前で「ブンブン」と粋がったところで、それがどうした?
 ぶっちゃけノライヌやノラネコの一匹でも校内に侵入したほうが、よっぽどテンションがあがって大さわぎになる。
 が、それは子どもたちの話にて、大人となるとそうはいかない。
 教師たちが「こらー!」と正門前に向かう。
 しかし敵もさるもの。大人たちが迂闊に手を出せないことを逆手にとって、ふてぶてしい態度にて、挑発を繰り返しては、その様子をスマートフォンで録画していた。
 これを見たアイちゃんが「あぁ、そういうことか。あの人たちってば自分で騒ぎを起こして、慌てふためている周囲の映像を撮影して、それをネットとかに上げちゃうつもりなのよ」と言った。

 いわゆる悪質動画というやつ。
 閲覧数が増えるとお金が発生するらしく、それを目当てに無茶なことをしちゃう人も多いらしい。

「うわー、サイテー」と子どもたちがブーイング。

 するとヨーコ先生がヒニクちゃんの側につつとよって、何ごとかを耳うち。
 コクンとうなづいたヒニクちゃんは、そのまま教室を出て行った。
 そしてしばらくすると正門前にて悲鳴が起こる。
 みればいつの間にやら飼育小屋から解き放たれていた、雄ヤギの帝王パッソが猛き衝動のままにヤンキーたちをボコっていた。
 突っ込んでくるバイクをひらりとかわし、横っ腹に頭突き。
 するとコテンと面白いようにバイクが倒れてしまう。そして投げ出されたドライバーたちの背中にズドンとアタック。
 荒れ狂う雄ヤギ、逃げ惑うヤンキーたち。
 違う意味での面白動画がとれそうにて、子どもたちケラケラ笑う。

「それにしてもパッソ、いつにもましてイラついてるみたいだけど」

 ミヨちゃんが怪訝そうな表情をしたところで、いつの間にやら戻っていたヒニクちゃんが言った。

「先週末、お見合いに失敗したみたい」

 とある小学校にて飼れていた雌ヤギ。けれども事情があって
 飼育が困難に。そこで嫁に出してしまおうという話になって、
 パッソのところにも話が。でも結果は……人もヤギもこればっかりは、ねえ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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