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496 虚弱体質
しおりを挟む「うわっ! また固まった。なんでバージョンアップするたびに不具合が増えていくんだよ。どうでもいい機能ばっかで、メモリはばんばん食うし、いい加減にしてくれ」
リビングにてノートパソコン相手に文句たらたらなのは、ヤマダ家の長兄ヒロ。
大学院生である彼が研究データの整理を自宅にて行っていた時のことである。
イライラして頭をガシガシしながら、わめくヒロ兄を尻目に、末妹のミヨちゃんはきょとん。
なにせ、よくわからない言葉がばんばん飛び出すもので。
だが兄の言葉を聞いているうちに、おぼろげながらも「パソコンに標準装備されてあるモノが改悪しまくっているらしい」ということは理解できた。
やってる方は良かれと思っているのだが、結果は散々。
マンガとかでもたまにあるだろう。「そこで止めとけば名作だった」というパターンが。
人気ゆえに止め時を見失い、編集部に頼み込まれて続けた結果、後付け設定のオンパレードになって、矛盾が出まくり、物語破綻しまくり、新キャラ投入しまくり、大ぶろしき広げすぎ、伏線張り過ぎ……などで、最後がムリヤリすぎて「???」となっちゃうの。
出版業界に繰り返される悲劇。
同じような現象がコンピューター界隈にても発生しているらしい。
頻繁に行われるアップデータ。そのたびにトラブル続出、ストレス急上昇。
より良く、より便利に、より快適になるはずが、実際にはより不快になるばかり。
「あげくに半強制的にデータを送り込んで来やがる。気づけばネット回線が占領されてたり、何もしていないのにCPUがフル回転させられ、メモリが限界に達してシャットダウンとか、マジでかんべんして欲しいよ」
うっかり興味本位で藪をつついてしまったミヨちゃん。
とたんにヒロ兄の口から溢れだす不満の嵐。
やれ「強制終了は心臓に悪い」
やれ「ブルー画面は死刑宣告みたいでやはり心臓に悪い」
やれ「専用サイトの解決案が役に立った試しがねえ」
やれ「なにかあればすぐに『メモリを増やせ』だの、『パソコンを買い替えろ』だの気安く言うな」
やれ「いらねえ機能を増やすんじゃねえ」
やれ「わざとなのか? コレは嫌がらせなのか?」
コンピューター系にはかなりうといミヨちゃん。ヒロ兄の憤懣を前にして、「便利な箱かと思ってたけど、案外、不便なのね」と思った。
いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校時に、この話題を持ち出したミヨちゃん。
「世の中、便利になったはずなのに、なったらなったで別のストレスを抱えるんだから、なかなかうまくいかないよね。この前、職員室でもヨーコ先生がパソコン相手に怒鳴ってたし」
仕事にプライベートにと、すでに欠かすことができないコンピューター。
とっても賢いので、とっても役立っている。
だがわりとよく壊れる。パソコンたちはおもいのほかに繊細。
ちょっとしたことで機嫌を損ねて、寝込んでしまう。
「そんなものに頼りきってる社会って、ちょっとこわいよねえ」
ミヨちゃんが現代社会の在り方に一抹の不安を抱いたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「パソコンは壊れることが前提にて、わりと虚弱体質」
ある日、突然に機能不全に陥るパソコン。
前兆はあるらしいのだけれども、素人にはちょいとムズカシイ。
経験者ほどビクビク。恐怖症に襲われるという。
そのうちパソコントラブルが原因でポックリ事件とか起こりそう。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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