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492 進歩

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「なんだよ、まだ進化させてないのかよー」
「うん。進化させたら強くなるのはわかってるんだけど、チームバランスが」
「なら、メンバーをかえたら? ビビンゴを入れたらいけるって」
「でもアレって見た目がダサいから」
「あー」「だな」「能力は充分なんだけどなぁ」
「となるやっぱり選択は……」

 休憩時時間、教室の片隅にて男子たちが額を突き合わせては「あーでもない」「こーでもない」と白熱の議論をしていたのはゲームの話。
 少し前までならば、「もう、ゲームばっかりして! 宿題は終わったの?」なんてお小言が日常茶飯事だったのに、ゲームの腕を競うイ―スポーツが本格化し、プロゲーマーが誕生し、学校の部活としても認知され、世界大会なんかでは巨額の賞金が飛び交うようになってからは、親たちの認識が一変。
 ゲームの腕前もまた才能の一つにて、あわよくば……なんて考える大人たち。
 おかげで、ゲームが大好きな子たちには随分と風通しがよくなり、過ごしやすくなった。
 かつては子どもたちの憧れの職業といえば、スポーツ選手やパイロットとかが定番であったのだけれども、そこにプロゲーマーやインターネットで動画配信をする人などが喰い込み、上位にランクインするようになる。
 なにかの拍子に人気が爆発することを「バズる」というそうだが、一夜にして時の人となり巨万の富を得て、億万長者の仲間入りなんてことも夢物語ではなくなった。
 もちろん傍で見ている以上にたいへんなはずなのだが、そういう裏の事情は表からは見えないわけで、どうしたっていい面ばかりが目立つ。
 最低限の機材さえ揃えれば素人でもチャレンジできる。
 おかげで老若男女に関わらず「もしかしたら」とやってみる人が後を絶たない。

 ミヨちゃんのご近所さんでも「やれ配信だ」と熱心に活動している者がいる。延々と盆栽のうんちくと、チクチク枝の手入れをしている動画。
 ぶっちゃけ面白くない。感想を求められて「えーと」とミヨちゃんが返事に困る程度にはつまらない。
 ゆえに当然ながら人気はイマイチにて、すっかりその他大勢に埋没している。
 そういった意味では失敗。でも活動自体は成功。
 なにせ、そのお爺ちゃんはとっても生き生きとしており、毎日がとっても楽しそうだから。
 そりゃあ本音を言えば「バズりたい」
 誰だって承認欲求を満たしたい。みんなに認められたい。必要とされたい。
 でも、それとは別にして、やることがあるのは生き甲斐になる。
 おかげで十は若返ったと当人が喜んでいる以上は、きっといいこと。
 あいにくとまだ近くにプロゲーマーの方は誕生していないけれども、これとて時間の問題かと思われる。なにせゲームは門戸が広い。いまやスマートフォンで持ち運んではいつでもどこでも誰とでも遊べる時代なのだから。

 そんなハイテクな時代だというのに、ミヨちゃんがエンピツをピコピコ動かしながら遊んでいたのは、百円ショップで売っていた数独パズルの小冊子。おばあちゃんがボケ防止にと購入したうちの一冊をもらったのだ。
 はじめはあまり興味がなかったのだけれども、やり始めるとこれが存外たのしい。
 で、学校にまで持ってきて休憩時間にも遊ぶほどにドはまり中。
 ミヨちゃんは男子たちの話を聞き流しながら「まさかこんな時代がくるとはねえ」と口にした。「うちのお兄ちゃんの友だちとかにも、チームを組んで大会に出ている人がいるっていってたよ」

 周辺と会話をしながらパズルに挑戦するという器用なマネを披露するミヨちゃん。
 これを受けてヒニクちゃんがぼそり。

「ゲームも通信環境も社会も超進化。でも進歩はあまり」

 技術はずんずん進化し、世界の様相も一変。
 でも大多数の進歩がまるで追いついていないのが現状。
 百円の数独で楽しめる人生もあれば、最新ゲームを追い求める人生もある。
 はたしてどちらが真に満ち足りているのか。これはムズカシイ問題。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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