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490 カンカン
しおりを挟む一瞬の隙をついて、シュタタタとヒニクちゃんが駆けた。
慌ててそれを追おうとする鬼役の子。
だが気づくのが一歩遅かった。
グンと加速して、その背が遠ざかり、そして「カコン!」と小気味よい音がなる。
「ぎゃあ」と鬼の悲鳴があがり、「わー」「逃げろー」と蜘蛛の子を散らすのは、虜となっていた面々。
公園にて居合わせた子らと缶蹴り遊びに興じていたのは、ミヨちゃんとヒニクちゃん。
上級生風をふかし鬼役を買って出てくれた男子。
すでに三度目の解放を許し、ちょっと涙目。
しかしチビッコたちは、おかまいなし。忖度なんてムズカシイ言葉わかんない。だってまだまだ幼児だもの。
だが、五度目の解放にて上級生の男子が汗だくにて、ついにギブアップ。
そこで鬼役を一挙に三人に増やし、ゲームの難易度とスリルも大幅アップされて、再開することに。
なお鬼役の新たな仲間は指名制にて、上級生の子が選んだのは自分のクラスメイトと、ヒニクちゃんであった。なにせ五回中三回は彼女に煮え湯を飲まされたもので、ここは恥じも外聞も捨て、敵陣営の戦力を削り自陣営を強化するという手段に出る。
これにはチビッコたちも「かっこわりー」「おとなげねー」「ださすぎる」「そんなんだから彼女ができないんだ」とブーブー文句を垂れるも、抗議の声は黙殺された。
そんなみんなを尻目に、ガサゴソと自動販売機脇にあったゴミカゴを漁っていたのは、ミヨちゃんとヒニクちゃん。
鬼を増やすかわりに、カンカンも一つ追加のダブル体制を導入。
それに必要な品を探していたのだけれども……。
「いいのがないねえ」とミヨちゃん。
ゴミカゴの中にはアルミ缶ばかりにて、できればスチール缶が欲しかったのだが、それが見当たらない。アルミのヤツはすぐにへこんだり潰れたりするから、使用感がイマイチ。蹴ってもあまり遠くに飛ばないし。
他にも地味に条件がある。それは中身が残っていないことと、乾き切って水気が無くなっていること。でないと蹴った時に地獄となるから。
結局、目的の品がゲットできたのは、園内にある四つ目のゴミカゴを漁ってどうにか。
どうやら今朝方、回収された後だったらしく、いらぬ苦労を強いられることとなった。
三人鬼の缶蹴りは白熱し、好評のままに幕を閉じた。
いい汗かいたと家路を歩くミヨちゃんとヒニクちゃん。
その道すがら、ふと電柱をみると立て看板が掲げられてある。
そこには「苦節三十年、遅咲きの演歌の華がうんたらかんたら」書かれてあった。どうやら今度、市民会館でコンサートが開催されるらしい。
これを目にしてミヨちゃんが「苦節何年とか、構想何年とか、たまに聞くけど、実際のところどうなのかなぁ」と首をかしげた。幼女が気にしたのはカウントを始めたスタート地点。あれ? その気になれば、どうとでも言えそうな気が……とか思っちゃった。
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「カンヅメとカンキリが出揃うまでに六十年。何ごとも巡り合わせとタイミング」
カンキリが発明されるまで、カナヅチとノミで開けていたとか。
プルタブが発明されるのはさらにずっと時間が経ってから。
ステイオンタブ式が登場するのは、さらに二十年を要す。
現在のフタごとパカンのプルトップはさらにあと。いわんや人間ならば。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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