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486 陥没

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 本日は、いつもの道を通らずに、ちょっと遠回りをしての下校。
 朝、学校に行ったら学区内にある駐車場にて、大きな穴が開いたとのウワサを耳にしたので、ミヨちゃんとヒニクちゃんは見物に出かけたのである。

 ウワサの場所は百台ほども止められる周辺でも一番大きな駐車場。
 と、言えば聞こえはいいが、だだっ広い空き地に白線を引いただけの、簡素な造り。
 それでも借りている人は多く、夜にもなれば八割ぐらいは車で埋まる。
 しかし穴が開いたのは、朝方にて、ちょうど通勤時間のピークが過ぎた直後。
 おかげで巻き込まれる車も、ケガ人も出ずにすんだ。
 まぁ、だからこそ幼女たちも好奇心のまま、「ちょいと見てみよう」と思ったわけで。

「うわー、けっこう大きいねえ」

 規制線が張られており、安全のためにお巡りさんが数人立っている。
 そこから見てもわかる巨大さ。ふつうの一戸建て住宅が丸ごとすっぽり収まりそうな規模。深さも三メートルぐらいもあるというし、もしも巻き込まれていたらと想像して、ミヨちゃんは肩をぶるると震わせた。
 野次馬は他にもぼちぼちきており、それらの話に耳を傾けていると、穴が開いた原因もおぼろげながら判明。
 なんでも古くなった水道管に穴が開いて、そこから漏れた水で少しずつ地面の下が削られてゆき、このようになったらしい。
 水道管の穴自体はそれほど大きくなくて、せいぜい直径二センチにも満たないとか。
 なのにこんな大穴を開けてしまうだなんて。「まさにアリの一穴、天下の破れだねえ」などと野次馬のおじさんが感心していた。
 この話を聞いてミヨちゃんも「アリってすごいねえ。そういえば白アリも家を倒しちゃうし。おそるべしアリ族」

 ひとしきり大穴を見物し終わったので引き上げることにしたミヨちゃんとヒニクちゃん。

「そういえば、ヒロ兄ちゃんの友だちの部屋が白アリにやられちゃったんだって。けっこうな騒ぎになったっていってたよ」

 大学院生であるミヨちゃんの長兄。
 大学という場所柄、地方から単身で下宿しつつ通っている生徒も多い。
 不幸にも白アリの被害を被ったのは、とある小奇麗な単身者用のアパートの一階に住んでいた学生。
 前々から異変はあった。
 ときおり部屋の隅っこに土埃のようなモノが見受けられた。だが彼は特に気にしなかった。それは彼の実家が農家で、家が土壁だったから。彼にとっては土埃なんて、見慣れた存在にて当たり前。
 でも、いま住んでいる部屋は今風の建物。もちろん床が畳なだけで壁材とかは今風なモノが使用されている。
 ゆえに本来であれば出るわけがなかったのだが、彼はきづけなかった。
 そして悲劇は起きる。
 ある朝のこと。
 目覚ましの音に反応し、「さぁ、今日もがんばろう」と起きようとした矢先に、ベッドがガクリと沈んだ。「なんだ?」と戸惑っているうちにも、ズブズブ。
 畳どころか、床板まで突き抜け、床下にまで突っ込むハメに。
 するとそこは白アリ天国だったという次第。
 まぁ、物件のオーナーがきちんと業者を呼んで対処し、お部屋もキレイに修理してくれたというけれども、あまりにもショッキングな光景だったらしく、しばらく白米が食べられなくなったんだとか。
 とんだ災難である。

「ジャングルにはピラニアみたいに何でも食べちゃう軍隊アリとかいうのもいるっていうし、火アリとかいう毒のあるのもいるんでしょう? アリ族、やっぱりおそるべし」

 ミヨちゃん、おおいに怖がるも、きっと彼女は大丈夫。
 だってモフモフ系にはめっぽう嫌われているけれども、昆虫類にはめっぽう好かれているから。
 それがわかっていながらも、言ったらたぶんミヨちゃんがへこむので、口にはしないヒニクちゃん。その代わりとばかりに、こう言った。

「アリと白アリ。じつは敵同士」

 白アリはゴキブリ目にて、油虫のお仲間。わりと草寄りの雑食。
 黒アリはハチ目にて、ミツバチとかのお仲間。わりと肉寄りの雑食。
 どちらも社会性に富んだ昆虫にて、生態系においては、人より大切な存在。
 だって人はいなくても地球は回るけど、アリがいないと回らなくなるから。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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