486 / 1,003
486 陥没
しおりを挟む本日は、いつもの道を通らずに、ちょっと遠回りをしての下校。
朝、学校に行ったら学区内にある駐車場にて、大きな穴が開いたとのウワサを耳にしたので、ミヨちゃんとヒニクちゃんは見物に出かけたのである。
ウワサの場所は百台ほども止められる周辺でも一番大きな駐車場。
と、言えば聞こえはいいが、だだっ広い空き地に白線を引いただけの、簡素な造り。
それでも借りている人は多く、夜にもなれば八割ぐらいは車で埋まる。
しかし穴が開いたのは、朝方にて、ちょうど通勤時間のピークが過ぎた直後。
おかげで巻き込まれる車も、ケガ人も出ずにすんだ。
まぁ、だからこそ幼女たちも好奇心のまま、「ちょいと見てみよう」と思ったわけで。
「うわー、けっこう大きいねえ」
規制線が張られており、安全のためにお巡りさんが数人立っている。
そこから見てもわかる巨大さ。ふつうの一戸建て住宅が丸ごとすっぽり収まりそうな規模。深さも三メートルぐらいもあるというし、もしも巻き込まれていたらと想像して、ミヨちゃんは肩をぶるると震わせた。
野次馬は他にもぼちぼちきており、それらの話に耳を傾けていると、穴が開いた原因もおぼろげながら判明。
なんでも古くなった水道管に穴が開いて、そこから漏れた水で少しずつ地面の下が削られてゆき、このようになったらしい。
水道管の穴自体はそれほど大きくなくて、せいぜい直径二センチにも満たないとか。
なのにこんな大穴を開けてしまうだなんて。「まさにアリの一穴、天下の破れだねえ」などと野次馬のおじさんが感心していた。
この話を聞いてミヨちゃんも「アリってすごいねえ。そういえば白アリも家を倒しちゃうし。おそるべしアリ族」
ひとしきり大穴を見物し終わったので引き上げることにしたミヨちゃんとヒニクちゃん。
「そういえば、ヒロ兄ちゃんの友だちの部屋が白アリにやられちゃったんだって。けっこうな騒ぎになったっていってたよ」
大学院生であるミヨちゃんの長兄。
大学という場所柄、地方から単身で下宿しつつ通っている生徒も多い。
不幸にも白アリの被害を被ったのは、とある小奇麗な単身者用のアパートの一階に住んでいた学生。
前々から異変はあった。
ときおり部屋の隅っこに土埃のようなモノが見受けられた。だが彼は特に気にしなかった。それは彼の実家が農家で、家が土壁だったから。彼にとっては土埃なんて、見慣れた存在にて当たり前。
でも、いま住んでいる部屋は今風の建物。もちろん床が畳なだけで壁材とかは今風なモノが使用されている。
ゆえに本来であれば出るわけがなかったのだが、彼はきづけなかった。
そして悲劇は起きる。
ある朝のこと。
目覚ましの音に反応し、「さぁ、今日もがんばろう」と起きようとした矢先に、ベッドがガクリと沈んだ。「なんだ?」と戸惑っているうちにも、ズブズブ。
畳どころか、床板まで突き抜け、床下にまで突っ込むハメに。
するとそこは白アリ天国だったという次第。
まぁ、物件のオーナーがきちんと業者を呼んで対処し、お部屋もキレイに修理してくれたというけれども、あまりにもショッキングな光景だったらしく、しばらく白米が食べられなくなったんだとか。
とんだ災難である。
「ジャングルにはピラニアみたいに何でも食べちゃう軍隊アリとかいうのもいるっていうし、火アリとかいう毒のあるのもいるんでしょう? アリ族、やっぱりおそるべし」
ミヨちゃん、おおいに怖がるも、きっと彼女は大丈夫。
だってモフモフ系にはめっぽう嫌われているけれども、昆虫類にはめっぽう好かれているから。
それがわかっていながらも、言ったらたぶんミヨちゃんがへこむので、口にはしないヒニクちゃん。その代わりとばかりに、こう言った。
「アリと白アリ。じつは敵同士」
白アリはゴキブリ目にて、油虫のお仲間。わりと草寄りの雑食。
黒アリはハチ目にて、ミツバチとかのお仲間。わりと肉寄りの雑食。
どちらも社会性に富んだ昆虫にて、生態系においては、人より大切な存在。
だって人はいなくても地球は回るけど、アリがいないと回らなくなるから。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
小児科医、姪を引き取ることになりました。
sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。
慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる