ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

484 集中力

　
　テストがある。
　だから勉強をしなくちゃならない。
　けれども、そんなときにかぎって見たいテレビがあったり、散々に読み飽きたはずのマンガがやたらと面白く感じたり、それが大長編だったりして、「ちょっとだけ」のつもりが「あーっ！」となっちゃったり。

　算数のテストがあった授業の後の休憩時間。
　いろいろあって出来がイマイチにて、がっくりしているミヨちゃんが、「昨日はちっとも集中できなかったよー」とボヤく。

「わかるわかる。やることがあるときに限って、ついってなっちゃうよねえ」

　うんうんとうなずいたのはチエミちゃん。
　算数のテストの出来？　もちろん普通だ。偉大なる平凡の女王は、今日も安定の平均値をひた走っている。

「わたしの場合は、逆に静まりかえるとかえって落ち着かないかなぁ」

　そう漏らしたのはリョウコちゃん。小さな弟がいる彼女の家庭環境では、弟がアニメに見入っているか、遊びに夢中になっているか、寝ているとき以外は、たいていにぎやか。うるさいのが当たり前になっているので、下手に静かになると逆に集中できなくなる。
　そして本日のテストの出来は、そこそこ。

「集中するのならアルファ波が良いって。だからわたしは勉強するときはクラシックを流しているわよ」

　クラスのオシャレ番長のアイちゃんは、なんとも大人びたご意見を口にする。
　大きな自宅の父の書斎、そこの棚にズラリと並ぶはクラシックＣＤの全曲集。全部で三十巻という大ボリュームにて、誰もが一度は耳にしたことのある名曲から、誰それ？　というマイナー作家の曲まで収録。これを適当に抜き出してはプレーヤーで流している。ちなみにアイちゃんのおすすめはモーツアルト。
　そしてテストの出来は上々。

　クラシックと聞いて、ミヨちゃん、チエミちゃん、リョウコちゃんは、おもわず顔をしかめるも、実際に成果をあげているというのでアレば、これを取り入れるべきかと大いに悩む。

「なんならＣＤ貸そうか？」とアイちゃん。

　しかしリョウコちゃんは、「遠慮しとく。弟がおもちゃにして割る姿しか、想像できないから」とやんわり断る。
　チエミちゃんは「たぶん寝るからパス」ときっぱり。
　ミヨちゃんは「うーん」と最後まで悩んだ末に、「わたしもヤメとく。よくよく考えたら、自分の部屋にプレーヤーがないから」
　兄たちの部屋に行けば据え置き型があるのだが、近くに兄たちがいると、なにかと絡んでくるので、いっそう集中できそうにない。なにせ二人の兄たちは末妹がかわいくってしかたがないシスコン揃いなのもので。

　ここから幼女たちの話は、「いかに集中力を高めるか」ということにシフトしていく。
　アルファ波を出すヒーリングミュージック、ヘッドフォンや耳栓などで外部の音や情報を遮断。逆にあえて我が身を賑やかな環境下に置く。脳にがんばってもらうために糖分を与える。ダラダラしても意味がないのであえて休憩をとる。声に出しての決意表明。文字に書いての決意表明。ムズカシイことは脇へよせて出来ることからコツコツと。邪魔になりそうな品をあらかじめ周囲から徹底排除。ツボを押す。座禅を組んでの心頭滅却。指先運動にて脳を刺激などなど……。

　とにかく思いつくかぎりの方法を羅列して、この中から自分にあったモノを試してみようと話がまとまりかけたところで、これまで沈黙を守っていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。

「集中力を高めるためのアレコレについ夢中になって、集中力のムダ使い説」

　机の周りやお部屋の散らかりは乱れた心のあらわれにて、
　これを解決して気分もスッキリ。集中力も大幅アップ。
　でも普段はやりもしない掃除にはりきりすぎて、本題が疎かに。
　ちなみに集中力は十五分をピーク、あとはだだ下がりするらしい。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。