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479 得手不得手

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 ミヨちゃんが通う学校では、不定期ながらもときおりドッジボールや大縄跳びの大会が開催される。
 それには先生たちも全員参加。
 校長先生も教頭先生もみんながみんな生徒らに混じって、いっしょに遊ぶ。
 どのクラスがどの先生とチームを組むのかは、抽選を行う。
 学校生活において、どうしても生徒たちは担任の教師との接点ばかりが増えがち。
 信頼関係は濃密になるが、その反面、人間関係の間口が狭くなる。
 身近な大人が限られれば限られるほど、子どもの物の考えや見方の幅が狭まり、受ける影響も大きくなる。
 もしも何か困ったことが起こって、相談したいことがあっても、その選択肢が担任や保険医の先生だけとかなのは、いささか少なすぎる。
 女の子が男の先生に相談しづらいこともあれば、男の子が女の先生に話しにくいこともある。また同性であるからこそ言いにくいこともあれば、年代のズレが原因で感覚の齟齬があってうまく伝わらないこともある。
 また教師も、つい自分の教え子ばかりに目がいってしまい、全体を見る配慮を怠ってしまいがちになる。
 慣れは怠惰へと繋がりやすく、それゆえに小さい問題を見過ごして、過日の大事を招くこともある。
 これらを解消するための交流イベント。
 生徒らはふだん接する機会のない教師と言葉をかわし、意外な一面なんかを知り、教師もまたしかり。

 で、本日はドッジボールの日。
 全校生徒が体育館に集まっての教師抽選会から幕をあける。
 結果によって、悲喜こもごも。
 お遊びとはいえ、負けるのは悔しい。
 大人と子どもの混合チームとなれば、やはり勝利の鍵を握るのは大人。
 自分たちのクラスがクジにてどの教師を引き当てるのかで、戦力が激しく上下する。

「やったー! ヨーコ先生だ」

 檀上にてクジを引いた女子生徒が高らかに、自身が引いたクジをかかげると、彼女のクラスから歓声があがり、周囲からは有力選手を先にとられて「あー」というガッカリな声。
 ヨーコ先生はドッジボールが上手い。その脅威のキャッチ率は八割を超える。
 他に人気なのは、若いムキムキの体育の先生と教頭のシフジアカネ女史。
 ムキムキは子ども相手に容赦のない弾丸を放つ砲台として。
 女史はとにかく視野が広く、まんべんなく指示を飛ばしては各々に魅せ場を与えつつ、勝利の方程式を導くプランナーとして。
 次々と抽選が行われていく中で、ついにミヨちゃんらのクラスの番となる。
 壇上にあがったのは、リョウコちゃん。
 躍動する筋肉にて、軽やかに階段をトントントンの登る美脚ホットパンツ姿は、まるで断崖絶壁を縦横無尽に駆けるカモシカを連想させる。
「えいやっ!」と気合をいれてクジを引いたリョウコちゃん。
 が、クジに書かれた名が読まれた途端に、ミヨちゃんのクラスからは「あー」と深いため息。
 そこに書かれてあったのはサユリ先生の名前。
 五年生の担任で左の薬指にはキラリと指輪が光り、「ふぅ、肩が凝っちゃった」が口癖の爆乳教師。
 誤解のないように言っておくが、とっても生徒想いのいい先生にて、特に男子の上級生からは絶大な支持を得ている方である。
 だがしかし、ドッジボールはあまり得意ではない。
 その理由はわざわざ言わなくてもわかるであろう。
 そしてヨーコ先生の脅威のキャッチ率の秘密もまた、そこに由来しているのだが、このことを面と向かってヨーコ先生に指摘する勇者は、いまのところまだ現れてはいない。

「うーん、こりゃあ、今回は学年最下位決定かな。男子たちは頼りにならないから、あとはリョウコちゃんに期待するしかないね」

 冷静に戦力分析をおこない、早々に結論を下したミヨちゃん。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「すでにおっきなボールを二つも下げているのに、一度に三つは物理的にムリ」

 ドッジボールは子どもの暴力性を助長しイジメを誘発するから野蛮。
 非人間的にて人間に害を及ぼすなんて、という主張の論文もあるんだとか。
 まぁ、言いたいことはわかるし、何ごとも強制はよくない。
 でもそんな説を声高に提唱する人たちの幼少期が、ちょいと気になる。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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