479 / 1,003
479 得手不得手
しおりを挟むミヨちゃんが通う学校では、不定期ながらもときおりドッジボールや大縄跳びの大会が開催される。
それには先生たちも全員参加。
校長先生も教頭先生もみんながみんな生徒らに混じって、いっしょに遊ぶ。
どのクラスがどの先生とチームを組むのかは、抽選を行う。
学校生活において、どうしても生徒たちは担任の教師との接点ばかりが増えがち。
信頼関係は濃密になるが、その反面、人間関係の間口が狭くなる。
身近な大人が限られれば限られるほど、子どもの物の考えや見方の幅が狭まり、受ける影響も大きくなる。
もしも何か困ったことが起こって、相談したいことがあっても、その選択肢が担任や保険医の先生だけとかなのは、いささか少なすぎる。
女の子が男の先生に相談しづらいこともあれば、男の子が女の先生に話しにくいこともある。また同性であるからこそ言いにくいこともあれば、年代のズレが原因で感覚の齟齬があってうまく伝わらないこともある。
また教師も、つい自分の教え子ばかりに目がいってしまい、全体を見る配慮を怠ってしまいがちになる。
慣れは怠惰へと繋がりやすく、それゆえに小さい問題を見過ごして、過日の大事を招くこともある。
これらを解消するための交流イベント。
生徒らはふだん接する機会のない教師と言葉をかわし、意外な一面なんかを知り、教師もまたしかり。
で、本日はドッジボールの日。
全校生徒が体育館に集まっての教師抽選会から幕をあける。
結果によって、悲喜こもごも。
お遊びとはいえ、負けるのは悔しい。
大人と子どもの混合チームとなれば、やはり勝利の鍵を握るのは大人。
自分たちのクラスがクジにてどの教師を引き当てるのかで、戦力が激しく上下する。
「やったー! ヨーコ先生だ」
檀上にてクジを引いた女子生徒が高らかに、自身が引いたクジをかかげると、彼女のクラスから歓声があがり、周囲からは有力選手を先にとられて「あー」というガッカリな声。
ヨーコ先生はドッジボールが上手い。その脅威のキャッチ率は八割を超える。
他に人気なのは、若いムキムキの体育の先生と教頭のシフジアカネ女史。
ムキムキは子ども相手に容赦のない弾丸を放つ砲台として。
女史はとにかく視野が広く、まんべんなく指示を飛ばしては各々に魅せ場を与えつつ、勝利の方程式を導くプランナーとして。
次々と抽選が行われていく中で、ついにミヨちゃんらのクラスの番となる。
壇上にあがったのは、リョウコちゃん。
躍動する筋肉にて、軽やかに階段をトントントンの登る美脚ホットパンツ姿は、まるで断崖絶壁を縦横無尽に駆けるカモシカを連想させる。
「えいやっ!」と気合をいれてクジを引いたリョウコちゃん。
が、クジに書かれた名が読まれた途端に、ミヨちゃんのクラスからは「あー」と深いため息。
そこに書かれてあったのはサユリ先生の名前。
五年生の担任で左の薬指にはキラリと指輪が光り、「ふぅ、肩が凝っちゃった」が口癖の爆乳教師。
誤解のないように言っておくが、とっても生徒想いのいい先生にて、特に男子の上級生からは絶大な支持を得ている方である。
だがしかし、ドッジボールはあまり得意ではない。
その理由はわざわざ言わなくてもわかるであろう。
そしてヨーコ先生の脅威のキャッチ率の秘密もまた、そこに由来しているのだが、このことを面と向かってヨーコ先生に指摘する勇者は、いまのところまだ現れてはいない。
「うーん、こりゃあ、今回は学年最下位決定かな。男子たちは頼りにならないから、あとはリョウコちゃんに期待するしかないね」
冷静に戦力分析をおこない、早々に結論を下したミヨちゃん。
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「すでにおっきなボールを二つも下げているのに、一度に三つは物理的にムリ」
ドッジボールは子どもの暴力性を助長しイジメを誘発するから野蛮。
非人間的にて人間に害を及ぼすなんて、という主張の論文もあるんだとか。
まぁ、言いたいことはわかるし、何ごとも強制はよくない。
でもそんな説を声高に提唱する人たちの幼少期が、ちょいと気になる。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる