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477 鏡

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 前から見ても、横から見ても、後ろから見ても、ピカピカ。
 鏡面仕立てのビルディング。
 ミヨちゃんたちが住んでいる街の駅前にも何軒か建っている。
 いかにも「オレたち仕事出来るぜ。ふふん」と言わんばかりの面構えにて、デンとそそり立っている。
 夜になると外灯やら周囲のビル灯り、車のライト、駅前のイルミネーションなどを映して、それはそれはアダルトでムーディ。
 とってもオシャレだと思う。
 とってもカッコイイとも思う。
 だけれども幼女は首を傾げずにはいられない。

「なんでわざわざ鏡張りなの?」と。

 そういうデザインだからと言われたら、それまでのこと。
 ビルを建てた当時、こういうのが流行していたと言われてもそれまでのこと。
 ひょっとしたらビルのオーナーや社長さんの好みなのかもしれない。
 けれども幼女はそんな建物の前を通るたびに、ステキと思うのと同時にちょっと不安になってしまう。
 例えば地震なんかで、ビリビリに割れてしまったら、ガラスの破片が大量に上から降って来る。
 古来より、あらゆる武術マンガにて、頭上をとられるのはマズいと云われている。
 なぜなら無防備かつ急所かつ、認識しづらく守りづらいから。
 むちゃくちゃ鍛え上げているキラーマシーンどもですらもが危ういというのに、か弱いちびっこには、とても対処できそうもない。
 あるいはキャッチボールなんぞをしていて、うっかりそれたボールが、ポーンといってガッチャン! なんてことになったら、大きなガラスを丸ごと総とっかえ。いったいどれほどの費用を請求されるのか。ガラスは大きくなるほど高いというから、きっととんでもない額になるはず。あぁ、想像するだに恐ろしい。

「どうせピカピカにするなら、いっそのこと全面ソーラーパネルにしちゃえばいいんじゃないの?」ともミヨちゃんは思っている。

 実際にソーラーパネルビルという先進的な建造物は存在しているらしい。
 ただ発電量は充分なのだけれども、天候や季節に左右されるのと、メンテナンス費用と交換周期がややネックとなっているんだとか。
 それでもって住宅地で設置したら、きっとモメて村八分になりそう。なにせ反射がキツイから。
 それからソーラーパネルを車体に内蔵された車も開発されたとか。

「というか、ソーラーパネルにしろ、車のボディにしろ、ビルの壁にしろ、世の中どうにもツルツル鏡面仕様が多すぎる気がする。なんで? みんなそんなに鏡がスキなのかな? もしかして街は潜在的ナルシストであふれているの?」

 よく遊んだ帰り道。
 夕陽を受けて赤く染まっている鏡面仕様のビルディングを眺めながら、ミヨちゃんが前々から思っていた疑問をぶちまけた。

 鏡。
 おそらくはじまりは水溜まりとかの水面。
 そこから黒曜石やら金属板を磨いた銅鏡、錫、水銀、金、銀、ガラス、アルミニウム、メッキに硝酸銀溶液を用いたモノへと進化してきた鏡の歴史。
 宗教的な意味合いから、富や地位の象徴、化粧やオシャレの相棒へと変遷を重ねて現代へと至る。
 あちらとこちらの世界をつなぐモノにて、気がついたら鏡の中の自分と入れ替わって、すべてをのっとられちゃった! なんてお話も創作されるほどに、身近に溢れているけれども、ちょっとふしぎな存在でもある。
 光の反射がどうの、屈折がこうのという野暮な科学的解説は、まるっと無視して、ミヨちゃんの疑問を受けて、ヒニクちゃんはおもむろに口を開く。

「自己鏡映像認知能力を得て、人は客観的視点を手に入れた」

 これの有無が知能の高低に直結するという話だけれども、
 サルやイルカにゾウあたりは納得がいくけれど、ブタもわかるらしい。
 客観的視点でモノがみれるのは知性の証。
 そのわりにはナルシストってば、むちゃくちゃ自分本位な気がする。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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