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469 夏恋
しおりを挟む夏の風物詩といえば、お祭りに浴衣に花火に海にプールにラジオ体操 ……。
そして忘れてはならないのが、うんざりするほどの宿題の山。
夏休みの冒頭にスタートダッシュを決める先行逃げ切り型。
夏休みを通してコツコツと計画的に仕上げる堅実型。
夏休みの末に決死のラストスパートを見せる怒涛の追い上げ型。
やっつけ方を見れば、その子の性格がわかるといっても過言ではない、夏休みの宿題。
八月も残りがそろそろ見えてきた日の午後。
エアコンの効いたミヨちゃんの部屋で、ピンク色の可愛らしいテーブルを挟んで、せっせと夏休みの宿題に取り組む二人の小学生の女の子たち。
無機質な数式が連なった計算ドリルを前に、四苦八苦していたのは、生来の性格の良さが災いしてか、なにかと級友たちから雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。
そんな彼女の向い側で、真っ赤に添削された読書感想文の原稿用紙を前に、眉間にシワを寄せていたのは、クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに恐れられているヒニクちゃん。
残念ながら人間、だれにだって得意不得意というモノが存在する。
文系は大得意だが理系がちょっと苦手なミヨちゃん。理系は得意だが文系はかなり苦手なヒニクちゃん。
そこで二人は協力して欠点を補い合うことにする。
ようは互いに自分が得意な分野で、それぞれが教師と生徒の役割を演じるのだ。
このアイデアはなかなかの成果をあげ、おかげで宿題は順調に消化されつつある。
だがそれならば、いっそのこと宿題を分担して後で写し合ってはという、ヒニクちゃんの効率的かつ労力軽減な提案は、残念ながらミヨちゃんの「ズルはだめ!」という素気ないひと言で却下されてしまった。
そんなワケで苦心の末になんとか仕上げた読書感想文を、ミヨちゃんに添削してもらったヒニクちゃんではあったが、その結果は御覧の通り。
それもそのはず。児童文学の不朽の名作「赤毛のアン」を読んで、その感想文が大学生が書いたレポートのように、淡々と主人公の性格を冷静に分析した挙句に、「彼女の頭はおかしいです。一度、専門医に診てもらうべき」では、さすがにおおらかなミヨちゃんでも、合格のサインを出すことは出来なかったのだ。
ほぼ全編に赤エンピツの文字で書かれた、小学生らしい指摘の数々に埋め尽くされた原稿用紙。これを前にして、さすがのヒニクちゃんも落胆の色を隠せない。
二人は少し休憩にしようということとなった。
ハト麦茶が入ったグラスを片手にクッキーをかじりながら、ミヨちゃんがぼやく。
「せっかくの夏休みなのに。不毛よねぇ」
ヒニクちゃんも黙ったままでコクンとうなづく。お休みなのに宿題がある。
それは週末に家に仕事を持ち帰るお父さんと同じこと。時間外労働のサービス残業。なんという理不尽、そんなの許しちゃいけない! と思いつつも何も言わない。なにせ彼女は、生粋の無口にて一日平均百文字程度で生きているから。
友達の口がとってもナマケモノなのは充分に承知しているミヨちゃん。ゆえに返事がなくとも気にせず一方的に話しかける。それが二人の日常。
「せっかくの夏なんだから海へ行って、それからそれから……」
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だがここで、おもむろにヒニクちゃんが閉じていたその口を開く
「夏の恋と書いて虚偽と読む」
夏の海辺、波打ち際の陽に焼けた砂浜。そこはウソの地雷原。
女たちの不自然な胸の膨らみ、男の意味不明な忙しくて寝てないアピール。
ご用心ご用心。下心のある人に限って笑顔は絶やさないと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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