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467 つぶやき

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 街中より少し川に沿って登っていくと、自然豊かな場所となる。
 野性というほど緑が濃くなく、人の生活圏からもそれほど離れていない。
 それゆえに一種の空白地帯のようになっているところ。
 ここは近隣の子どもたちの格好の遊び場。
 そこを訪れていたのはミヨちゃんとヒニクちゃん。
 べつに何をするという目的があるわけじゃないが、たまにはキレイな空気と豊な自然の中に身を置くのが美容にいいらしいと、雑誌に書いてあったので。
 しばらく散策したり、他の子らが昆虫を採っているのを見学したり、咲いてる花を眺めたりしながらブラブラ。
 少し汗をかいてきたので、ちょっと一休みと川原の浅瀬に腰をおろし、靴とくつしたを脱いで水に足をつけて涼をとる幼女たち。
 水深十センチにも満たない超浅瀬にて、ここ数日上流にて雨が降ったという情報もなく、水の流れもとっても穏やか。だから安心してのんびりまったり過ごしていたら、ミヨちゃんがぽつりと言った。

「このまえタカ兄ちゃんにスマートフォンを見せてもらったの。そしたらみんながいっぱいつぶやいていたの。でも……」そこでちょっと言い淀んだミヨちゃん。なんとも申し訳なさそうな顔をして「でもちっとも面白くないの。というか意味不明?」

 昨今、猫も杓子もつぶやきまくっている。
 ちょっと天気がよかったらつぶやく。
 食事をするときにもつぶやく。
 野良猫を見かけたらつぶやく。
 旅行に出かけたらつぶやく。
 体調を崩したらつぶやく。
 眠たくなったらつぶやく。
 起きたらつぶやく。
 いいことがあったらつぶやく。
 イヤなことがあってもつぶやく。
 そんなにつぶやいた挙句に、「いいね」を貰ったらうれしいという。
 ブチブチつぶやいて、いいね。
 他人のぶつぶつ話を聞いて、いいね。
 これがどうにもよくわかんないとミヨちゃん。
 もちろんそれらのつぶやきの中には有益な情報も埋もれている。数多のつぶやきを分析することで色々とわかってくることもあって、その情報を活用することでビジネスにつながることもあるのも、なんとなく理解はしている。
 が、それを差っ引いても小首を傾げずにはいられないミヨちゃん。

「たとえばキーワードを入れるでしょう? するとすぐに数百件もずらずらと、つぶやきが出てくるの。でもほとんどがどーでもいいの。こっちが知りたい情報じゃないの。それならふつうにネットで検索した方が速いし役に立つの。それなのにみんなはどうして、こんなにつぶやいているのかなぁ。それを見て、本当に楽しいの? 有名人とか友達のならばまだわからなくはないんだけど、その他大勢の赤の他人のブツブツを眺めていたら、かえってイライラしてくると思うんだけど」

 日々どんどんと量産されて垂れ流されては、広大なつぶやきの海へと埋もれていく文字データたち。
 いかに一つ一つのデータサイズは微々たるものとはいえ、塵も積もれば山となる。
 それらを発信するために費やされてる労力や時間。貴重な青春時代。それらは人生をガリゴリと削りとっているようなもの。
 つぶやくという行為。
 ミヨちゃんはそれに本当に価値があるのか? と考えている。

「やってみないとわからないし、自分のつぶやきに反応があったら楽しいって気持ちもわかるの。でもだからって、日がな一日、ヒマを見つけてはスマートフォンの画面とにらめっこってのも、ちょっとちがう気がするの」

 いずれ自分もスマートフォンを手にするときが来る。
 それがわかっているからこそ幼女は考えずにはいられない。周囲や世間に流されるままに使い続けていたら、いつしか道具に生活を支配され、ついには人生をも左右されることになるのではないかと。
「そんな大げさな」とは言い切れないところが、なんとも悩ましい。
 ちょっとホラーSFっぽいミヨちゃんのお悩みを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「人は意味がないことに意味を見出そうとする生き物」

 ネット小説、べつにエタってもいいじゃない。だって趣味なんだもの。
 あらゆる経験が人生の糧になるはず。より心を豊かにしてくれる。
 意味とか理由づけとか。八割方、自分への言い訳説に一票。
 でもしようがない。自分で自分を甘やかすのが最高の娯楽なんだから。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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