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463 食パン
しおりを挟む駅前に新しくおしゃれな店ができた。
造りはブティックとかブランドショップっぽい。
でもそこは食パンの専門店。一斤、千円を超える品だけを扱っている。
客の入りはそこそこ?
ウワサでは基本的に予約制にて、予約なしで買える量には限りがあるらしく、それも午前中にはすべて売り切れてしまうらしい。
他にもわざわざ電車に乗ってきたり、車で来る客もいるとかいないとか。
店舗の工事をしていたのは知っていたけれども、とくにチラシを配ることも告知することもなく、気が付いたらオープンしていた。
看板もオシャレな横文字にて、地元でもしばらくのうちは、そこがパン屋だということもわからなかったほど。
そんな店先に立って、お店をぼけーっと眺めているのはミヨちゃん。
隣にはヒニクちゃんの姿もある。
「一本千円とかすごいよねえ。スーパーだったら食パン十個買えるよ。五枚切りなら毎日食べても一ヶ月半はかかるよ。六枚切りなら二ヶ月。八枚切りなら……なんかいっぱい。とにかく食べ放題だよ」
途中で計算が面倒になってはしょったミヨちゃん。
超庶民な幼女からは、とても想像がつかない世界に、ただただ驚かされるばかり。
たしかに近頃、テレビとかでもたまに特集が組まれているのを見かける食パンの世界。
デパートとかでは専門店とかあり、有名店から取り寄せた品がいくつも並ぶなんていうところもあるという。
やれ「もっちり」だの「ふんわり」だの「しっとり」だの「いいニオイ」だの「耳がおいしい」だの「そのままでもイケる」などなどと騒がれている。
が、そこがいまいち幼女にはよくわからない。
だって食パンなんだもの。
耳はウマいというよりも固くて食べずらい部位。
味だってマーガリンやジャムを塗ればそれなりに美味しいけれども、「メロンパンとどっちがスキ?」とたずねられたら、ミヨちゃんは迷わず「メロンパン!」と答える。
ヒニクちゃんにしても似たようなモノ。家で食べているときに、たまに邪魔くさくなって耳の部分をペットのゾウガメのポン太に与えることもある。
学校の給食でも、食パンはコッペパンの下位互換にて人気はいまいち。
トースターで焼いたらだいたい同じ食感になる。
というは寝起きにムシャムシャする食パンは、正直なところあんまり美味しくない。
お父さんなんてたまにコーヒーにじゃぶじゃぶ浸してびちびち食べてる。そしてその姿をおばあちゃんに「はしたない」と叱られている。
「これがフランス式の食べ方なんだ」とお父さんが言い返すも、真偽のほどは不明。
よしんば本当のことだとしても、くたびれたオッサンがパリジェンヌのマネをするのはどうかとおもう末娘。
とどのつまり何が言いたいのかというと、ミヨちゃんの中で食パンの地位はかなり低いということ。
「わたしなら千円の食パンより、クリームパンが十個の方がうれしいかなぁ」
食パン専門店からお店のロゴがはいった紙袋をさげて出てきた、セレブっぽい客がしゃなりしゃなりと歩いて遠ざかる背中を見送りながら、ミヨちゃんが身も蓋もないご意見を言ったところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「美味しいものはお値段だけでなくカロリーも少々お高め」
厳選した素材を使い、手間暇をかけて、最上の逸品を作る。
限られた条件と予算の中で、創意工夫にて庶民向けの品を作る。
本当にムズカシイのはどちらかと考えると、感慨もひとしお。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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