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459 進化
しおりを挟む少し前のニュースにて、住宅街に大きなクマが出没した映像が流れていた。
冬に向けてモリモリ食べるシーズン。
近頃の気候変動のせいか、山で思うように食べ物が手に入らなかったのか、人里へと降りてきたクマ。
これがまぁ、立派な体躯にて、当然のごとく街はパニック。
いくら威嚇しても悠然と街中を闊歩し、住宅の塀をのっそりと乗り越え、敷地内に侵入しては、のそのそ出ていく。ゴミ箱を漁り、庭木になった果物を漁り、車庫に潜り込んでは置かれてあったドッグフードの袋を漁る。
場所柄ゆえに迂闊に銃撃するわけにもいかず、かといって放置するわけにもいかず。
とりあえずパトカーにて追跡、監視を徹底し、付近の住民らに「家から出ないで」「エサを与えないで」との通達を徹底するばかり。
人々が右往左往する中にあって、唯我独尊のクマ。
気性は荒くないのか、終始、興奮することもなくマイペースなのが、唯一の救いか。
この手の事件が起こると、かならず巻き起こるのが保護か殺処分の論争。
それも関係のない外野で起こるから性質が悪い。
三日連続で街中にクマが出没しているとの報道を見ていたミヨちゃん。「どうするのかなぁ」といっしょに公園で遊んでいたヒニクちゃんに声をかけるも、彼女は「さぁ」と首を傾げるだけであった。
そもそもサル一匹で大さわぎとなるのに、相手がクマではどうしようもあるまい。
野性動物との付き合い方が論争の的にされて久しいが、いまだに明朗な解決策は出ていないのが実情である。
おそらくこの問題は後々の世にまで宿題として、残されることであろう。
そんな大問題を幼女らがどうにか出来るわけもなく、早々に「たいへんだねえ」で片づけた二人。
二人してブランコに並んで乗って、立ちこぎにてギーコギコ。
いつもは順番待ちも珍しくないブランコなのに、今日はほぼ独占状態。
原因はスーパーの駐車場にて戦隊ヒーローの着ぐるみショーが開催されているせい。そちらに子どもらの大部分が流れているのだ。おかげであと一時間ぐらいはこぎ放題。
しばし二人して競い合うかのように「おらおら」と暴走。
ブランコの鎖が千切れるのではなかろうかとの勢いにて、こぎまくる。
も、ついにチカラ尽きて、正しい乗り方に切り替える。
地面につくかつかないかの位置にて、足をぷらぷらさせながら揺られていると、ミヨちゃんが言った。
「そういえば昔のペンギンはわたしよりも大きかったんだって」
クマからペンギンへダイブする話題。
だが動物好きのミヨちゃんからすれば、広義にて同ジャンル扱いゆえに、それほど唐突というわけでもなく、いつもこんな調子でときおり話が横っ飛びするのでヒニクちゃんも平然とこれを受け入れるのみ。
なんでも外国で発見された古代ペンギンの化石の身長が百六十センチほどもあったそうな。なお推定体重は七十キロオーバー。
まさに歩く着ぐるみペンギン。その胸元に抱き着けば、さぞや極上のモフモフが味わえることであろうと、妄想するミヨちゃん。デへへと表情筋が緩みっぱなし。
これを受けてヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。
「ペンギンに見られる進化論の行く末」
攻撃性に特化する強力な爪と牙を持つ進化を遂げた動物たち。
逃走などの動きに特化する進化を遂げた動物たち。
繁栄しているのは、どちらかといえば後者。
これって人類の進むべき道を示している気がするの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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