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455 宇宙人

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 駄菓子屋の店の横にワンプレイ三十円というアーケードゲームがある。
 横スクロールアクション、縦型シューティング、落ちものパズル。
 ぶっちゃけ古臭い画面と音楽、地味な演出、しょぼいアクション、そして理不尽な難易度にて、遊ぶ者とてほとんどいない。
 かつては一斉を風靡したエリアンがこぞって地球を侵略してくるゲームとかもあるが、今時の子どもは、そんなものにはほとんど見向きもしない。
 なのにずっと置いてあるのは、撤去するのもひと苦労だし、新たな台を投入するほどでもないから。いわゆる惰性である。そしてときおり気づいたら増えたり減ったりしているのは、どこぞより流入してきたり流出していたりするから。
 ごく稀に、この手のゲームのファンが小銭を山と積んで、長いこと画面にかじりついていることもあるけれども、だいたいが飾りと化している。

 インベーダーゲームの台をテーブル代わりにして、駄菓子をむしゃこらしているのはミヨちゃんとヒニクちゃん。

「これってムズかしいんだよねえ。まえに一度、やってみたんだけどすぐにゲームオーバーになっちゃった」

 画面に映し出されるデモ映像を眺めながらミヨちゃんがぼそり。

「そもそも大量に攻めてくる宇宙人相手に、動く砲台一基でどうにかしろとか、ムチャがすぎるとおもうの」

 しかも砲塔は単搭。残機はぎりぎり。ろくすっぽ連射も出来やしない。
 せめてツイン、もしくはトリプル砲塔にしてくれたら、もう少し戦いようもあるのに。
 とミヨちゃん、ブチブチぐちる。
 あげくに多勢に無勢はズルいとまで言った。
 かつて世界中の若者たちを熱狂させたゲームも、現代幼女の口撃によってけちょんけちょん。
 でも幼女はべつに本気で怒っているわけではない。
 たんに思いついたことを口にしているだけのこと。だって親しく気安い者同士でいる時間ほど、どうでもいい内容をだらだら垂れ流すものだから。
 なおさっきからずっとミヨちゃんだけがしゃべっているのは、いつものこと。
 ヒニクちゃんは一日平均百文字前後の発言で生活している超省エネ幼女。
 ゆえにミヨちゃんが一方的に話しかけて、ヒニクちゃんが聞き役に徹するのが二人のスタイル。

「そういえば宇宙人っているのかなぁ……。マンガとかゲームや映画では定番だけど、本当のところはどうなんだろう」とミヨちゃん。

 宇宙人存在説。
 ほとんどの宇宙関連の専門家や機関らは「いる」と断言している。
 でもそれはあくまで確率論での話。
 これだけ広大な宇宙なのだから、自分たち以外にも知的生命体がいたって、ちっともおかしくない。むしろいないと考えるほうが無理がある。
 理屈はわからなくもないけれども、なんとも根拠が薄弱にて希望的観測に基づいた意見。
 ロマンといえばロマンだけど。
 そもそも理系脳の集積みたいな宇宙産業なのに、そこに従事している人材はロマンチストだらけという、なんとも矛盾した業界。
 だから物事に対して否定から入ることはなく、「いない」とは言い切れないので「いる」という考えが主流となるのだが。

「実際にいたとして、わたしたちと仲良くは……、まぁ、してくれないよねえ」

 国がちがうだけでモメる。すぐ隣り同士でもモメる。
 やれ民族がちがう、やれ肌の色がちがう、やれ歴史がちがう、主義主張がちがう、文化がちがう。
 国どころか、ご近所同士でも下手すりゃモメにモメる。ゴミの出し方ひとつで大ケンカなんてことも。あれが気に入らない、これが気に入らない。
 血を分けた肉親でもモメる。老若男女のべつなくモメまくる。
 そんな生き物を相手に、誰が仲良くしたいと思うだろうか?
 昨今の世界情勢をかんがみて、ミヨちゃんのこの率直な感想。
 これを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「心配しなくても大丈夫。向こうがこっちにくるよりも先に、きっと自滅する」

 文明が発達し、人民が成熟し、より優秀になれば世界は平和になる。
 でも現実は、文明が発展するほどに、戦闘行為がより過激効率化しただけ。
 仲良くなるためのメディアツールも、ケンカの道具に成り下がってるし。
 たぶん宇宙人と遭遇する確率より、人類が滅亡する確率の方がぐんと高い。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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