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451 浸水深
しおりを挟むドンブラコと波が立つプール。グルグルと園内を川のように流れるプール。ギューンと滑り落ちるウォータースライダー。小さな子用の浅いプールから、大人でも足が届かないぐらいにまで深いプールなど、いろんな種類が揃っている郊外の大型遊泳施設へとやってきたミヨちゃんとヒニクちゃん。
本日の引率はミヨちゃんの次兄である高校生のタカ兄。
新聞の集金のおばちゃんから優待券をもらったので、遊びにきたのである。
周囲の水着美女たちには目もくれず、ひたすら妹とその友人のそばにべったりな兄。シスコン気味な兄は警戒している。かわいい妹が人さらいの毒牙にかからないか、とっても警戒している。
というのもつい先日、とある地方のショッピングセンターにて、母親が少し目を離した隙に、男に幼女が連れ去られるという事件が起きたばっかりだから。
せめて結末がハッピーエンドならば、まだ救いがあったのに現実はとても残酷だった。
そんなことがあり、たとえ周囲に人の目が多くあっても逆に多すぎてあてにならないことがわかったものだからこその、この用心深さ。
けれども周囲の目には、そんなタカ兄こそが不審者に映るらしく、入場以来、すでに二度ほど係員から声をかけられるという、屈辱を味わっている。
そのたびに説明を求められるミヨちゃんが、地味にイラ立つというハプニングがあるものの、それ以外は楽しいプールにつき、幼女たちはあちこちへと行っては大いにはしゃぐ。
流れるプールにて兄がしがみつくボートにて二人乗りをしていたミヨちゃんたち。
しばらくしたらピンポンパンポンとお報せの放送。
これは水からあがって休憩するときの合図。
調子にのって遊んでいるとカラダが冷え切って危ないのだ。また事故の見落としなど、いろいろと意味合いのある行為なのだが、はしゃいでいる子どもらにすれば、とってもツマラナイ時間。せっかく興が乗ってきたとろこを邪魔されたも同然だから。
だからとて、こっそり水の中に戻ろうとしようものならば、とたんに「ピピー」とホイッスル。ムキムキな係員がどたどた駆けてきた問答無用で「こらっ!」
こと安全に関するがゆえに、百対ゼロで向こうが正しいから、日頃はナマイキなお子たちも素直に従うことになる。まぁ、それでもイタズラをしちゃう子は後を絶たないので、そこかしこでイタチごっこが見られるのだけれども。
あちこち堪能してから立ち寄ったのがステージのあるプールのエリア。
ここでは毎回、いろんなショーが開催されている。
そして本日は某アイドルが歌って踊るらしい。
これを目当てにして、熱心なファンらしき若人たちがそこそこ詰めかけていた。
「やっぱりアイドルのファンには男の人が多いのかなぁ」
集った面々を眺めてミヨちゃんがぼそり。実際のところほぼほぼ男性客ばかり。
ひと口にアイドルといっても、ファン層は様々。
男性が夢中になるアイドルもいれば、女性に熱烈に支持されるアイドルもいる。
ましてや昨今は、アイドルの群雄割拠時代なので、いったいぜんたいにてどれほどのアイドルが存在していることか。
そんなうちに軽妙な音楽が鳴りだして、ステージに登場したのは何故だか水鉄砲を手にした水着のアイドル。
どうやら本日はファンとバンバン、水鉄砲で交流しながらのステージらしい。
なんともアグレッシブなこと。そしてぶるんぶるんとゆれる胸元を注視して、「原因はこれか」とミヨちゃん。「男ってやつは」とジト目になる。
そして始まる歌と踊りと水鉄砲合戦。
アイドルときゃっきゃうふふと戯れる夏のステージ。
おそらく主催者側にはそんな目論見があったのだろう。
が、現実はちょっと予想の斜め上をいく。
だってさ。百対一で勝負したら、普通はボロ負けするよね?
「水着はがっちりガードしてあるみたいだけど、お化粧のほうが耐えられなかったか。はたしてアイドルとしてはどちらがアウトなのかしら」とミヨちゃん。
スケベ男子どもはやたらと胸元やら腰回りを狙い、ドキドキハプニングを目論むも、そんなことはアイドル側とて百も承知。むざむざポロリなんぞするわけもなく、しっかりと対策済み。
するとこれにイラ立った阿呆どもが顔面へと攻撃を展開。
おかげで息はろくすっぽ出来ないは、化粧が落ちるは、つけまつげは飛ぶわ、イヤリングも外れるわ、と散々な結果に。
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「水のチカラをあなどったらダメ!」
知ってる? たった五十センチの浸水深で車のエンジンが止まっちゃうの。
それ以上になると車そのものまで浮いちゃうんだから。
大人でもひざ下まできたら歩行困難に。小さな水でも集まるとスゴイの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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