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450 三元
しおりを挟むピンポーンとインターフォンが鳴って、届いたのはお中元の品。
この頃、すっかり下火となった文化というが、それでもやっているところはやっている。遠縁にてなかなか会えない親族とか、これで生存確認をしているようなもの。なかにはウン十年前に仲人をした相手からも、律儀に届き続けているケースもある。
昔はこれに企業間やら会社の内外での公私に渡るやり取りもあったと言うのだから驚きである。いったいいかほどの出費であったことか、ちょっと想像もつかない。
が、いまでは色々とあって、あくまで個人の習慣として細々と残るのみ。
贈る品が掲載されてあるカタログの中には、定番の品から極上スイーツまで、そのバリエーションはじつに豊富。
なのにヤマダ家に届くのは、そうめん、洗剤、油、あとたまにジュースばかり。
キラキラゼリーの詰め合わせなんて送られてきたためしがない。
それでも毎回、淡い期待にて箱にかぶりついていたのは末娘のミヨちゃん。
でも今回のはビールだった……。
これには母娘そろって顔をしかめて「いらねぇ」
つい先日の出来事である。
ところと日付がかわって、こちらはコヒニ宅。
エアコンがキンキンに効いたリビングにて、果物ごろごろゼリーを仲良く頬張っていたのは、ヒニクちゃんとミヨちゃんの二人。
人形作家をしているヒニクちゃんのお母さんのコヒニサユリ。
けっこうな売れっ子さんゆえに関係各所やら各地の知り合いなどから、わりといろいろ送られてくる。
けれどもコヒニ家は三人家族。だからとてもすべては処理しきれないので、ときおりミヨちゃんのところにおすそ分け。
で、荷物運びのミヨちゃんの次兄であるタカ兄が来る前に、ちょいと味見としゃれこんでいる次第。
待望のスイーツにミヨちゃん、ホクホク顔。
いっしょに食べているヒニクちゃんは相変わらずの能面っぷりだけれども、内心ではやっぱりホクホクしている。だって、どんなに美味しそうなお菓子がたくさんあっても、一人で食べるのはやっぱりつまらないもの。
「おいしいね」と笑い合える相手がいるのが、しあわせ。
これを噛みしめつつヒニクちゃんも黙々とサクランボゼリーをもぐもぐ。
「そういえばやっこ姉さんも、顔を見せてくれっていってたよ。なんかモモとブドウがいっぱい届いたんだって。果物だったらポン太にもあげられるよね? 明日、いっしょに貰いにいこう」とミヨちゃん。
ちなみにポン太とはヒニクちゃんの家で飼われているペットのゾウガメのことである。
ミヨちゃんが撫でられる数少ない動物のひとつ。のそのそ動くも頭はわりと良い。
誘われてヒニクちゃんがこくんとうなづく。
「それにしても集まるところには集まるもんだよねえ。うちはさっぱりだよ」
そうめん、洗剤、油のトリプルアタックにやれやれと首をふる幼女。
もしもモテ老女である彼女の祖母や、お年寄りキラーであるミヨちゃんがその気になれば、それこそ山のような甘味が集まることであろう。
が、それはお母さんが許さない。あとおばあちゃんも。
どうやら二人は一方的にモノを受け取る行為をよしとは考えていないようだ。
我が家の首脳陣がそう判断している以上は、末娘は粛々と従うのみ。まぁ、お母さんたちの言っていることも、なんとなくわかるし。
そんな感じで中元の話題をぽつぽつ話していた二人だが、ミヨちゃん、ふと考えた。
「あれ? お中元お中元って言うけれども、なんでお中元のなのかしらん。年の真ん中に贈るからかなぁ」
この疑問を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「ずんとむかしには中元だけでなく上元、下元もあったらしい」
上元は一月十五日。中元は七月十五日。下元は十月十五日。
あわせて三元。たまたまお盆のシーズンと重なったことで現在の形に
派生したみたい。贈り物を手に相手宅へと挨拶に赴いていたのも今は昔。
個人的にはいい習慣だと思うのだけれども。
この衰退っぷり、宅配任せで楽をしたツケかしら。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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