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445 駅弁
しおりを挟む押し寿司のようなお弁当、いろんなオカズが詰まったお弁当、海鮮づくしなお弁当、野菜中心のヘルシーお弁当、ヘルシー志向なんぞクソ喰らえなお弁当、炊き込みご飯のおにぎり弁当……。
大学のゼミで地方に出かけていたヤマダ家の長男が、母親からの言いつけで買ってきた駅弁の数々。
テーブルの上いっぱいに出し並べられたそれらを、家族そろって分け合いながら、つまむ夕食。
いささか量が多すぎるが、ヤマダ家では食べ盛りの高校生の次男坊にお父さんと男手が三人もいる。それに祖母もわりと健啖な性質なので、これぐらいならばペロリ。
長男より旅の話なんぞを聞きながら、ちょっとお行儀が悪いけれども迷い箸をふらふらさせながら、目ぼしいオカズをつついていたのは末妹のミヨちゃん。
だがその表情は時間の経過とともに暗くなっていく。
デパートの地下の地方名産の特設会場。
あるいは旅番組やちょっとした電車の旅なんかで、よく特集を組まれては紹介される機会の多い駅弁。
普段、近場での乗り降りに終始する電車習慣の中では、まず食べる機会のない特別なお弁当。
「これぞ旅の醍醐味。出張のときには必ず買って車内に持ち込む。帰りとかで事情が許せばビール片手にちょっと羽をのばす」
お父さんからそんな話を聞いていたので、ミヨちゃんはずっとうらやましいと思っていた。
テレビで紹介される駅弁の数々も実に華やかにて、美味しそうに見えていた。
だからこの夜の食卓を密かに楽しみにしていたのだが……。
食べ始めの頃にははしゃいでいた孫娘。そのテンションがみるみる下がっているのを見かねて、祖母が「どうしたんだい?」と声をかける。
「うーん。買ってきてくれたヒロ兄ちゃんにはわるいんだけど、なんか微妙」
「おや? ミヨの口にはあわなかったのかい?」
「おいしいのはおいしいよ。でもテレビでワーキャーさわぐほどでもないかなぁ。あとデパートの地下で行列にならぶほどでもない気がする」
「あー、まぁ、アレはねえ」
「なにより高い。一個で千五百円とかちょっとしんじられない。というか、たぶんコンビニとかお弁当屋さんのお弁当の方がぜんぜんおいしい気がする。あとこのサラダのヤツが人気一位とか、ぜったいウソだと思う」
駅弁って、じつは高いよね。
駅弁って、やたら凝ってるやつほどイマイチだよね。
駅弁って、シンプルなやつほど安定の味だよね。
駅弁って、微妙なやつ多すぎじゃない?
駅弁って、外すと旅のテンションだだ下がり。
駅弁って、ホームとか車内販売になるほど割高感が増すよね。
駅弁って、ランキングとかネット情報がインチキ臭い。そもそも個人でそんなに買わないでしょ? 販売数イコール味の良し悪しじゃない。
駅弁って、結局、ロング商品を選ぶのが無難な気がするの。そういう品に限ってお値段もお手頃だったりするし。というか、ぶっちゃけおにぎり二個と唐揚げと卵焼きのシンプルな奴が一番うまいかもしれない。
……などなど、駅弁にまつわるデリケートな部分にザクリと切り込んだミヨちゃん。
小学二年生の幼女は、幼女ゆえに社会に忖度なんぞしないのである。
ただ彼女は素直に感じたままのことを、そのまま口にしただけ。
だって現在、テーブルに並ぶ駅弁の代金の合計があれば、家族揃って焼肉の食べ放題でも、うなぎ屋でも行けたんだもの。
ミヨちゃんの言葉を受けてヤマダ家の食卓が、一瞬シーンと静まりかえったのは言うまでもあるまい。
なんともいえない気まづい沈黙の後に、お母さんコホンと軽く咳払い。
「コレはそういうモノなのよ。だから黙って食べなさい」
家において母親の命令は絶対。
だから家族は黙々と残りを平らげることに集中する。
こんな風にてヤマダ家の夜は表面上は穏やかに過ぎていった。
「……なんてことが夕べあったの」
下校中に昨晩の食卓について語ったミヨちゃん。
これを受けてヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。
「当たりハズレもまた駅弁の醍醐味」
インターネットの情報やレビューは操作されている。
安心の実績と友人知人からの有力情報に頼るが吉。
あと価格が高いのには、はげしく同意。やっぱりショバ代かしら?
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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