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443 こけし

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 モテる女が、うっかりつぶやいた言葉。
 そのひと言が招き寄せる騒動というものがある。
 ミヨちゃんのおばあちゃんは夫と死別してからは、とってもアクティブ。
 明るく元気にいろんなサークル活動に顔を出している彼女は、ちょっとしたマドンナ状態。もちろん当人にその気はないのだが、男の方が勝手に寄ってくるのだからしょうがない。それでもサークルクラッシャーにならぬように、年の功を駆使してのらりくらりとやり過ごして楽しんでいたのだけれども、サルとて木から落ちるがごとく、ついうっかりが発生しちゃう。だって人間だもの。

 サークルの旅行中のこと。
 温泉街を浴衣姿でぶらぶら。土産物屋を覗いていたミヨちゃんのおばあちゃん。
 飾られてあったこけしを手にとり「あら? かわいらしい。ミヨみたいだわ」とつぶやく。
 これに反応したのが、周囲にて互いをけん制し合っていた老紳士たち。
 ピクピクと聞き耳を立て、その言葉を聞いた男たちはおもった。

「彼女はこけしが好きなのか。そして孫のミヨちゃんはとってもかわいい」

 彼女のハートを手に入れられれば、かわいい孫までついてくる。なんてお得なんだろう! でも、むさい男孫二人はいらん!
 一人は早速、最寄りの土産物屋に駆け込み「へい、おやじ。こけしを一つ配送をたのむ」
 一人が動けば二人が、二人が動けば四人がといった具合に男たちは行動を開始。
 互いに競い合うかのようにして、こけしを買い求めては配送の手配をする。
 その結果、この日、温泉街の歴史始まっ以来の珍事が起こる。
 なんと! 街からこけしが姿を消したのである。
 お土産物屋はこの珍事に、「すわ、こけしブーム到来か」と浮かれ、さらに多めに発注をかけてしまい、のちのちまでその在庫に苦しめられることになるのだが、それはまた別のお話。

 で、街から消えたこけしがどこに行ったのかというと……。

「おばあちゃーん、またこけしが来たよー」

 やたらと鳴るヤマダ家のインターフォン。
 出るたびに宅配便のお兄さんの笑顔。
 そして届いた小包やら箱をあけたら、こけしがにっこり。
 十個ぐらいまでは、お母さんもおばあちゃんも「やれやれ、男ってやつは、ほんとうに阿呆ばっかりだよ」と余裕であった。
 だけれどもコレが五十を超えたら、さすがに顔がひきつり、こめかみがピクピク。
 百を目前にしてお母さん「うーん」とダウン。
 おばあちゃんにいたっては「焼くか」と言い出す始末。
 だがこれに「かわいそうだよ」と異を唱えたのがミヨちゃん。「だって悪いのは阿呆たちであって、この子たちには何の罪もないんだから」
 心優しい孫から、無垢な瞳で見つめられてウルウルされては、さすがに抗えずにおばあちゃんも「うーむ」と黙り込む。
 そしてじきにヤマダ家のリビングは、大小さまざまなこけしたちに占領され、「こけしの間」となった。
 こうなってはさすがに面倒を見切れない。
 急遽開かれた家族会議の結果、ヤマダ家総出にて知り合いに片っ端から声をかけて、欲しい人を募集して配ることになった。

 そんなワケでヤマダ宅を訪れたヒニクちゃん。
 玄関先からずらりと廊下の壁面に張り付くかのようにして並べられた、こけしの回廊を抜けて、ウワサのこけしの間へと足を踏み入れる。
 ひと口にこけしと言っても職人の個性がキラリと光り、千差万別。
 実際にこうしてずらずらと並べると、その表情の豊かさに驚かされる。
 そんなこけしたちの中にあって、ひときわ異彩を放っていたのが全長六十センチオーバーのキングこけし。とってもいい木を使っているらしく、めちゃくちゃ重い。あと目つきがなんだか「むーん」とムクれている。
 なんとも悩ましい表情のキングを前にして、しばしこれを凝視していたヒニクちゃん。
 ふいに手を伸ばすと、キングの首をいじりだす。
 何ごとかと見守るミヨちゃんの目の前で、首を右へとねじりだすヒニクちゃん。どうやら最初からネジ式になっていたらしく、首はするする上へと持ち上がり、やがてすっぽんと抜けた。
 そしてカラダの方から貴金属類がザクザク出てきたものだから、たちまちヤマダ家大パニック!
 もちろんこんな品を受け取るわけにはいかないので、けっこうてんやわんやとなるのだが、それは大人の役目なので幼女たちには関係ない。

「あー、びっくりしたー。でもよくわかったねえ」とミヨちゃん。

 それを受けてヒニクちゃんがおもむろに口をひらく。

「いくらなんでも重すぎだもの」

 神像なんかの中に宝物を忍ばせるのは、わりと古い手法。
 実際にコケシ型のシークレットボックスなんてのも製造販売されているし。
 そういえばこけしもひな人形もルーツは同じらしいけど。
 これまたえらく差がついたものね。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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