ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

440 ギザ

　
　お母さんにおつかいを頼まれて、近所のスーパーをおとずれていたのはミヨちゃん。
　これに仲良しのヒニクちゃんもつき合っての来店。
　果物売り場にて試食のリンゴを食べ、魚売り場にてサーモンの切れ端をつまみ、パン売り場にてメロンパンの欠片にて糖分補給。最後に薬茶の試飲にて顔をしかめた幼女たち。
　で、ひとしきりスーパーを堪能したあとはお目当てのチクワを購入。

「袋はご入用ですか？」とレジ係のお姉さんにたずねられて「けっこうです」とミヨちゃん。「お買い物バッグを持ってます」

　ウサギのキャラクターが描かれたお気に入りのエコバッグ。
　これに購入した商品を入れてもらい、お会計をすまし、オツリを手に意気揚々と店をあとにする。
　おつりはお駄賃として好きにしていいとお母さんに言われているので、帰りに駄菓子屋に立ち寄り、何か買うつもり。

「ひぃ、ふぅ、みぃ」と小銭を数えていたミヨちゃん。「あっ！　ギザじゅうだ」と声をあげた。

　縁にギザギザの溝が入った十円玉。
　通称・ギザ十。
　付いているのと付いていないのがあって、付いている方がちょっぴり珍しい。
　そして付いていないモノより、少しばかり価値があがるとの都市伝説がまことしやかに囁かれつづけている。
　これを真に受けているわけじゃあないけれども、なんとなく見かけるたびに手元に残していたミヨちゃん。そのことを知った二人の兄や祖母などが、手元に入ってくるたびに寄付してくれるようになり、おかげで部屋にある缶の中に収まっているギザ十がけっこうな枚数になっている。
　まぁ、金額に換算したら微々たるものだけれども。

「この手のって、集め出すとやめ時がわからないんだよねえ」

　てへへ、と照れるミヨちゃん。
　その愛らしい姿にきゅんきゅんきたヒニクちゃんは、家にかえったらさっそくギザ十を探す決意を密かに固める。

「でもおばあちゃんが言ってたんだけど、昔の十円玉にはみんなギザギザがついていたんだって」

　事実、昭和三十四年まではついていた。
　ではなぜついていたのか？
　それは区別をするため。
　一円玉や五円玉にはついていない。
　でも十円玉や五十円玉、百円玉にはついている。五百円玉にもついている。
　アリとナシ。
　その理由は貨幣として価値による。
　つまりギザの差は、そのままランクの差。
　かつてはギザを身にまとっていた栄光の十円玉。けれども経済の発展にともなって、どんどんと扱いが悪くなって、ついにはコインカースト下位へ転落。
　イケてるグループからイマイチなグループへと。
　これはとても屈辱的なこと。
　さぞや悔しかったことであろう。さぞや切なかったことであろう。
　かつて、ミヨちゃんは、この話をおばあちゃんから教えてもらい、いっそうギザ十愛を募らせたものである。
　この話をしながら、ややうつむき加減にて、ちょっとしんみりしていたミヨちゃん。ふいに顔をあげて「でもね。ついにリベンジの時が来るんだよ」
　かつて消費税が導入されて、三パーセントのときには一円玉に脚光が集まった。
　かつて消費税が上がって、五パーセントになったときには五円玉がクローズアップ。
　かつて消費税がまた上がった、八パーセントになったときには一円と五円のデュエットが大人気。
　そしてついに消費税が十パーセントの時代がやってくる！
　これすなわち十円玉が、ふたたびステージに帰って来るということ！
　長い事、屈辱に耐えてきた十円玉の逆襲がついに始まる！
　ミヨちゃんの熱弁を「へー」と感心して聞いたヒニクちゃんが、ここでおもむろに口を開く。

「ギザ十の価値、発行年と枚数で変化するらしい」

　最大だと六万円の高額査定もあるとのこと。
　ただし未使用品だった場合に限るらしい。
　ちなみに使用品だと十五円。さすがに落差がひどすぎると思うの。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。