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438 カセットテープ
しおりを挟むお母さんのお手伝いにて階段脇の納戸の整理を手伝っていたミヨちゃん。
ある箱を開くと中からは大量のカセットテープと携帯用音楽プレーヤーがお目見え。
「あら? とっくに捨てたと思ってたけど、まだとっていたのね」
遥か昔の若かりし頃、青春と共にあった存在を懐かしむお母さん。
カセットテープ。
それは磁気テープメディアの種類の一つにて、世間一般的に一番広まった品。
これの登場により、長いことレコードやラジオのみであった音楽環境に激震を起こし、音楽をより身近な存在へと押し上げた文化文明功労者。
人類を革新へと導き、新たなステージへと押し上げたといっても過言ではない。
だが、栄枯盛衰が世の理。諸行無常にて、後発の光メディア、いわゆるCDの台頭によってその地位を次第に失っていくことになる。
時代は更に流れて、いまやデジタルデータが主流となりつつある今日この頃。
今の子はカセットテープを見ても「なにコレ?」状態なのも珍しくはない。
そんな中にあってミヨちゃんは知っていた。
彼女にはお年寄りの友人が多い。だからいまだにカセットテープを愛用している世代も多いのだ。
カラオケ、詩吟、落語、英会話……などなどで活用されているそうな。
一説ではカセットテープの音源はお年寄りの耳にやさしく、聞き取りやすいとか。
「昔はねえ、これにお気に入りの音楽を録音して、ドライブデートするのが流行していたのよ」とお母さん。
「へー」とミヨちゃんも興味深げにカセットをがさごそ。ちょっと昔の音楽を聴いてみたくなった。「この機械ってまだ動くかなぁ」
「どうかしら? たしか単三電池だったと思うから、試して見たら」
「うん」
というワケで、箱ごと一式を預かったミヨちゃん。
丁度、遊びに来たヒニクちゃんといっしょに自室にて機械を動かしてみることにする。
「えーと、これをここにこうやって……」
ガシャンとカセットテープを機械にセットするミヨちゃん。「この音、なんか好き」とおもわず笑顔を見せる。
ミヨちゃんとヒニクちゃんはヘッドフォンに耳を近づけ、さっそく再生ボタンを押してみた。
が、無音。
しばらく待つもジーッという音ばかりが続く。
「機械はちゃんと動いているけど、テープの方がダメになってたのかなぁ。なんか熱に弱いとかお母さんも言ってたし」
首をかしげつつ、ミヨちゃんが停止ボタンを押そうとしたとき、ヒニクちゃんがその手を止めた。
驚くミヨちゃんをよそに、自身の人差し指を口元に当てて「しーっ」とヒニクちゃん。
どうやら彼女の耳は何も録音されていないとおぼしきカセットテープの向こうに、何かを聞きつけたようである。
だからいったん巻き戻して、今度はボリュームを最大にして再生してみる。
すると微かに聞こえてきたのは、若かりし頃のミヨちゃんのお父さんとおぼしき男性の声。それがつぶやくのは、ちょっと口にするのははばかる内容。
とはいっても破廉恥なものではない。
むしろとってもピュアな愛の言葉。
つまりお父さんがお母さんに告白する練習が、なぜだかそのテープの中に収録されていたのである。
どうやら何通りか思いついたセリフを練習してから、本番にのぞんだらしい。
結果については言わずもがなであるが……。
「あははは、娘としてはちょっと反応にこまっちゃうかなぁ。しばらくまともにお父さんとお母さんの顔を見れそうもないや」とミヨちゃん。
これを受けてヒニクちゃんがおもむろに口をひらく。
「カセットテープにはツメがある」
今なお愛されているカセットテープ。新製品も発売されている。
レコードやCDも、なんだかんだで愛好家が多いと聞く。
流行と懐古は表裏一体。時代に愛され人々に愛されたモノは、永遠に。
邪魔なゴミだと思っていたアレやコレがじつは……、なんてことも。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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