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425 矛と盾
しおりを挟むいつものように仲良しのヒニクちゃんと手をつないで下校していたミヨちゃん。
交通事故の現場を目撃する。
ただし事故といっても、たいした事故ではなくって、急ブレーキをかけた前の車に後方の車が軽くコツンとしちゃっただけのもの。
とはいえ、キチンとお巡りさんを呼んで処理をしてもらわないと保険とかがおりないから、通報すると当然のごとく制服姿が駆けつけてくれる。
それで三者にてごにょごにょとしていれば、そこそこ目立つ。
幼女たちはこれを見かけのである。
「たいしたことなさそうでよかったね」
ミヨちゃんの言葉にコクリとうなづくヒニクちゃん。
二人はしばらく眺めてからスタスタと歩きだす。
交通量の多い道路をそれて住宅街へと入ったとき、家の塀の上で猫同士が向かい合って、「シャーッ」と毛を逆立てていた。
どうやらどちらが進路を譲るかでモメているようだ。
その場で通り過ぎるにはいささか幅が狭く、片方が引き下がるしかない状況。
でもいまのところどちらも引き下がるつもりはないらしく、それはもうスゴイ剣幕。
これを見上げてミヨちゃんはしみじみ言った。
「ネコの世界もいろいろたいへんだねえ」
まぁ、それでも猫はかしこいから適当なところで決着をつけて、ムダにケガをすることもないだろうと幼女たちは再び歩きだす。
いい天気だったし、少し散歩がてら遠回り。
土手の方に立ち寄り、川のせせらぎを感じながらテクテク進む。
橋の近くにまで来たところで、聞こえてきたのは「この野郎」「なんだこの野郎」とかいう怒号や罵声。
何ごとかと思えば、橋の下では若い者同士が拳で語り合い青春を謳歌していた。
じーっとこれを見つめる幼女たち。
一方的にボコボコというわけでもなく、また危ない凶器を手にしていることも、多勢に無勢というわけでもない。ある意味、真っ当なケンカにて、「これは放っておいてあげよう」との結論に達す。
「今日はもめごとが多いねえ」とミヨちゃんが言った。「そういえば世界の海でもなんだかモメてるってニュースでやってた」
ミヨちゃんがふと思い出したのは、とある海峡でのこと。
石油満載の大型タンカーがバンバン通る場所にて、とっても重要なところらしい。
でもそこで何者かに襲われるらしく、ちょっと困っているんだとか。
「それでみんなで協力して船を守ろうって言ってるんだけど……」
そもそも言い出しっぺが騒動の原因みたいなところがあって、みんなはアレ? となっている。
しかもその言い出しっぺさんってば、他国の軍事配備にはやたらと難癖をつけるくせに、自分のところはやりたい放題。
さらには世界でいちばん兵器類をバンバン輸出している。めちゃくちゃ儲けている。
とどのつまり自分で争いの種をまき散らしておいて、騒動が起きたら「みんなで解決しようぜ」とか臆面もなく言っちゃっている。
「自分で事件を起こして自分で解決とかあきれちゃう。とんだ迷探偵だよ。二時間サスペンスの主役級のツラの皮の厚さだよ」
ミヨちゃんが「えらい人って何を考えてるのかな?」「世界ってムズカシイよね」と首をひねったところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「矛と盾がそろうとむじゅんが生まれる」
対空だの防衛だのと言っても、ミサイルはミサイル。
攻めるためだろうが守るためだろうが兵器は兵器。
いくら屁理屈で建前をかざってもねえ。有志連合? プププッ。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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