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419 射的

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 地元の神社のお祭り。
 規模は小さく出店もたこ焼き、焼きそば、わたあめ、クジ引き、ドングリアメ、かき氷、お面に射的と八つが並ぶばかり。
 それでも子どもにとっては楽しいイベント。
 だからこの日のためにコツコツ貯めたお小遣いと、お母さんからもらった特別ボーナスを財布につめて、いざ出陣!
 お日柄もよくそこそこのにぎわい。
 周囲をキョロキョロしながら「けっこう来てるねえ」と感心したのはミヨちゃん。
 はぐれたら困るので手をつないでいるのは仲良しのヒニクちゃん。
 まずはお参りしてからと二人は賽銭箱のあるお堂へと向かう。
 ふだんから境内で遊んではいるけれども、お参りすることはなく素通りするばかりであったところで、パンパン手を叩き、とりあえずむにゃむにゃと願い事。

「クジ引きでいい景品が当たりますように」物欲全開のミヨちゃん、欲望駄々洩れ。
「……」無言のヒニクちゃんは、ただ胸の中にて自分たちの健康を祈る。ついでに背ものびますようにと付け加えておいた。

 たった五円で神様にお願いごとをたっぷりとした幼女たちは、にぎわう境内をぶらりとしつつ、ざっと出店をチェック。

「わたしは粉モノはパスかなぁ。あんまりお腹へってないし。クジは一回やる。あとはドングリアメを買って、かき氷はどうしよっかなぁ」とミヨちゃん。

 とりあえずクジ引きの出店へと向かうミヨちゃんとヒニクちゃん。
 最新のゲーム機に大きなヌイグルミなど、軒先に山と積まれた豪華景品の数々。
「ハズレなしだよー。一回、二百円だよー。早くしないといい景品がなくなるよー」と屋台の店主が声をはずませる。
 その言葉に嘘はない。ただしたとえあめ玉一個でもハズレなしと言い張れば、それまでなのは客である子どもたちとて重々承知。
 おそらくはそうそう、大当たりなんて出ないことも知っている。というか自分の身近で当てたなんて話をちっとも聞かない。そこはかとなく漂う疑惑。
 だがそれでも引かずにはいられない。
 それがお祭りの屋台の魔性。お祭りの熱気が見せる幻想。
 踊る阿呆に見る阿呆ならば、やっぱり踊るっきゃないでしょ! と果敢に勝負に挑んでいく子どもたちに混じって、ミヨちゃんも突撃。

「おっちゃん、一回ね」

 お金を渡し、クジの入った箱に手を突っ込んで、ガサゴソ。
 ムムムと眉間にシワをよせて、「これだ!」と気合もろとも引き抜く。
 結果は……五等。
 下から二番目にて、百円ショップにありそうなオモチャの中から好きなのを選んでいいよという内容。まぁ、かぎりなくハズレに近いものにて、とどのつまり敗戦である。
 ガッカリしながらミヨちゃんが選んだのは折紙セットだった。

 射的の屋台の前にいくと、そこにはリョウコちゃんが弟さんを連れて遊びに興じている姿があった。
 小学二年生にして高学年に近い背丈。スラリとした四肢はスポーツで鍛え上げられており、その圧倒的リーチを活かして手にしたライフルの銃口を目いっぱいに突き出し、ターゲットを狙い撃つ。
 引き金にかけられた人差し指が動くと、ポコンと乾いた音とともに発射されるコルクの弾丸。
 狙いあやまたずターゲットを捕捉。
 コツンとヒット! しかしちょっとグラついただけで倒れない。

「あー、惜しかったねえ」と言いつつ、即座に景品を元の位置に並べ直す店主がとってもしたたか。
 倒れそうで倒れない。屋台の射的とはそういうもの。
 だから大抵は高望みをして大物は狙わずに、無難なしょうもない小物を狙う。
 しかしリョウコちゃんは大物を狙った。あえて勝負に打ってでたのだ。だが結果は惜敗。
 悔しがる彼女を尻目に店主にお金を払って、位置についたのはヒニクちゃん。
 料金は二百円にて玉は五発と、なかなか良心的な価格設定。
 しばしライフルを手にとり銃身をなでたり、構えてみたり、引き金の感触を確かめたりするヒニクちゃん。
 それで判明したのは、どうやら狙いはかなりいい具合だけれども、威力がかなり抑えるように設定されてあるということ。
 とりあえず狙い通りに真っ直ぐ飛ぶとわかったところで、ヒニクちゃんは弾込めに入る。
 ただし、五つの銃を集めて、一度にまとめてすべて込めてしまった。
 意外な行動に店主が呆気にとられている隙に、シューティングスタート。

 一発目にてターゲットの角をコツン。ぐらりと揺れて、ちょっと浮く
 すかさず第二射。同じ箇所に当たって、カタカタと揺れる。
 その揺れが収まる前に続けて第三射と第四射。
 揺れがついに激しくなり、そこからクルリとバレリーナのように踊る。
 店主が幼女の狙いを悟り、「あっ!」と声をあげるも時すでに遅し。
 ファイナルショットにてターゲットは見事、棚の向こうへとポトン。

 その瞬間、周囲からドッと歓声があがった。
 これにより店主も文句をつけるわけにもいかず、「参ったぜ。見事な早撃ちだったよ」と潔く負けを認めて、景品を手渡す。「でも、そんなにまでしてコレが欲しかったのか?」と首も傾げずにはいられない。
 なぜならヒニクちゃんがゲットした景品は、地方のお土産物屋とかの隅にて売れ残ってホコリをかぶっていそうな、ちょっと大きな将棋の駒の置物だったから。
 大物は大物でも、誰にも見向きもされなかったという意味での大物。

「文鎮がわりにちょうど良さげ」とヒニクちゃん。

 まえまえから気になっているんだけれども。
 銃が身近にある国の人やプロの人が射的をやったらどうなるの?
 やっぱりバンバン当てちゃうのかしらん。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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