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416 ラブレター

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 子どもがどうして学校に通うのか?
 なんであんなに勉強しなくちゃいけないの?
 これはちょっと将来に役に立たないかなあ?

 だれもがこんな疑問を一度や二度は抱いたはずだ。
 でもその答えはとっても簡単である。
 阿呆だからだ。
 べつにこれは子どもを愚弄しているわけでも、あなどっているわけでも、ましてやバカにしているわけでもない。
 人は阿呆に生まれて、阿呆に生きて、阿呆のままに死んでいく。
 しかし物事には限度というものがあり、社会には節度というものが必要。
 それを学ぶために学校へと行かされるのだ。
 同じ阿呆ならば、まともな阿呆となるために。

 でも当然ながら通い始めたばかりの頃は、まだまだ阿呆ぶりが天然トゲトゲ状態にて、自分でも加減がわからないもの。
 その場のノリにて後先を考えずに行動をして、後々に大きくなってから己が黒歴史に悶絶し、終生苛まれることになる。
 ミヨちゃんが通う小学二年生の教室でも、いままさにそんな阿呆が阿呆たるゆえんの愚行を犯している真っ最中であった。

 ことの発端はじつに可愛らしいお話。
 ある女の子がクラスの男の子に淡い恋心を抱いた。
 その想いを綴ったラブレターをしたため、いつもよりちょっと早く登校して、これを相手の机にそっと忍ばせる。
 昔から学校ではわりとありふれたベタなイベント。
 だから本来であれば、粛々とうれしはずかしイベントを進行するだけでよかった。
 だというのに男の子がラブレターを受け取ったことを目敏く見つけた友人が、やんやとはやし立ててしまう。
 ここに小学二年生時の男女の精神的成長の明確なる乖離が露呈。
 周囲からからかわれて、ラブレターを受け取った男の子はあせって照れ隠しの末に「こんなもん、べつにいらねえや」みたいな言動をとってしまう。
 すると意地の悪い友人が、「だったら貸せよ」と奪い取り、あろうことか中身を朗読しだしたものだから、騒ぎはいっそう大きくなる。
 こうなると勇気を出して手紙をしのばせた女の子はたまらない。
 甘酸っぱい恋の想い出が一転して地獄メモリアル。
 そしてこんな非道な行いを受けた女の子の友人ら、もといクラスの女性陣はみな怒り心頭に発する。
 男女間抗争勃発!
 いかに早熟な女子とて「おとこってバカだよねえ」と笑って許せるようになるには、まだまだちょいと時間がかかるお年頃。
 男子にしても素直に「ごめん」と言える度量も余裕もなし。
 困惑する当事者たちを置いてけぼりにして、ヒートアップする周囲。
 で、騒ぎが一層大きくなって、ラブレターの送り主の女の子はますます立場がなくなる。
 この状況にミヨちゃんが「切ない」と哀しそうにポツリともらしたところで、おもむろにヒニクちゃんが動く。
 まるでクノイチのごとく気配を消して、例のラブレターを持つ男の子の背後に近寄ると、いきなりの膝かっくん。
 相手がガクリとなっておどろいてる隙に手紙の奪取に成功。
 この快挙に女性陣から喝采が起きた。

「いくら羨ましいからって、からかっちゃダメ。あと放課後、パッソの刑に処す」

 やんやと騒いでからかう人ほど、実は内心で羨ましがっている説。
 一度は貰ってみたい、うれしはずかしラブレター。
 乙女の想いを踏みにじる阿呆はヤギに頭突きされるといいよ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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