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409 音

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 時計の針の進むカチコチ。
 ブーンと唸る冷蔵庫。
 ピキリパキリと鳴く天井や床。
 ぴちょんと響く水道からこぼれた雫。
 どこか遠くを走っている車のエンジン音。
 線路をゆく電車のガタンゴトン。
 パタンと聞こえたのは近所のお宅の扉を閉める音。
 ふいにギャアと甲高い鳴き声をあげたのは、ナゾの鳥。
 壁ごしにかすかに聞こえてくるのは兄たちの寝息。
 それに混じって聞こえてくるイビキはたぶんお父さん。
 ちょっとうるさいなぁと思うけれども、急に聞こえなくなったらなったで、なんだか不安になってくるので、ちょっとドキドキ。
 するとそんな自分の心臓の鼓動までもが、気になり出して……。

 深夜にふと目が覚めて、妙に気がたかぶって眠れなくなる夜。
 ふだんは寝ている時間だから、見慣れた景色がいつもとちょっとちがって見える。
 空気も寒々としており、静まりかえっている家の中。
 視界は薄闇にてはじめはよく見えなかったのに、次第に目が慣れてくる。
 そしてなまじ視界が利くようになると、なにやら余計にこわくなる。
 部屋の隅、机の下、棚と壁にあるごくわずかなすき間……、薄闇の中に混じる漆黒なる部位が妙に際立ち、そこに何かが潜んでいそうな気がして、おもわずブルル。
 そのひょうしにトイレに行きたくなって、散々に悩んだ末に、布団からよっこいしょと出る。
 自室にはカーペットが敷いてあるけれども、廊下はフローリングがむき出し。
 そーっとドアを音がしないように注意しつつ開けて、外へと出れば、足の裏にヒヤリときておどろき、おもわずぴょんと飛びあがりそうになる。
 暗がりの中を二階から一階のトイレまで行くのは、ちょっとしたアドベンチャー。
 ふだんはまるで利用しない階段の手すりも、このときばかりは大活躍。

 深夜の小さな冒険をすませて自室に戻り、布団へと潜り込む。
 とたんに温もりにくるまれて、ホッとひと息。
 じきにウトウトまどろみはじめたのだけども、そこでふと目についたのが窓際。
 寝る前にキチンと閉めたはずのカーテンの端っこが、すこしばかり開いている。
 べつに気にするほどのことではない。おそらくは自分の勘違いなのだろう。
 だからそのまま寝入ろうとするも、いったん気になりだすと、どうにもイライラ。
 明日も学校があるし、このままグズグズしていたら朝にきちんと起きられなくて、またお母さんに怒られちゃう。
 だからふたたびムクリと起きて、カーテンを閉めることにした。
 近寄り、シャッと引けばすむだけのこと。
 けれどもなぜか、無性にカーテンの隙間の向こうが気になった。
 だから少しだけ開けて窓の外を眺める。
 そこに広がっていたのは夜の街。静謐なる藍色の世界であった。
 しばしその景色に見とれていると、カタリと小さな音がした。
 反射的に音の鳴った方へと視線を向ける。それは自宅の門扉あたり。
 おおかたお父さんが帰ってきたときに、きちんと閉めなかったのが風でも受けて音を立てたのだろうとおもった。
 でもそこには雨も降っていないのにレインコートを着た何者かの姿が。
 頭部が動きこちらを見あげる。
 外灯の明かりにて逆光となっており顔は見えない。
 レインコートの奥には真っ黒な闇だけがあった。

 というお話を下校中に、いっしょに帰っていたヒニクちゃんに披露したミヨちゃん。
 ちなみにこれは実話である。
 そしてオチは、新聞配達の人。
 雨合羽を着ていたのは、天気予報にて崩れるかもしれないとの情報があったから。
 なんとなくセンチメンタルな乙女っぽい内容から、急に身近に潜む恐怖へと話がシフトしてホラーテイストがましたので、内心にてドキドキしていたヒニクちゃん。おもむろに口を開く。

「毎日だからこそ気になる生活音」

 子どもの泣き声、足音、扉の開け閉め、トイレのジャー。
 テレビの音、流れている音楽、飼い犬のワンワン、イスを引く際のズリリ。
 ちなみにわたしは、電線が風でびよんびよんする音がわりと気になる。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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