402 / 1,003
402 まくら
しおりを挟む世の中には加齢臭なるものがあるらしい。
若い娘さんなんかはオッサンの代名詞みたいに扱って、クサイとバカにしているそうだが、その実、男女ともに発生する。
つまりいずれは我が身に跳ね返ってくるということ。
調子にのってた分だけ、のちのちに受けるダメージが倍々返しに!
まぁ、それはとりあえずどうでもいい。
問題はそれがけっして他人事ではないということ。
「でも、わたし、べつにお父さんの枕のニオイとかイヤじゃないんだけどなぁ」
そう言ったのはミヨちゃん。
この発言を聞いたら、きっと彼女のお父さんは小躍りして、ケーキを大量にお土産に買って帰ることであろう。また全国のお父さん方も、「うちもこんな娘が欲しかった」と滂沱の涙を流すにちがいあるまい。
だが、そんなミヨちゃんの発言に対して否を唱えたのはチエミちゃん。
「えーっ、うちのお父さんのなんてロウソクの燃えカスみたいなニオイがして、わたしはダメ」
うって変わって全国のお父さん方が、グサリと胸に一撃を喰らって悶絶しそうな厳しいお言葉。
これにはおもわず、クスクスと笑ってしまうアイちゃん。
彼女のところは一家そろっておしゃれなファッション関係に従事している。それゆえにこの手の話題には敏感ながらも、縁がないかとおもいきや……。
「うーん、こればっかりは体や健康の問題だからねえ。いっぱい汗をかいてれば、老廃物がじゃんじゃん排出されるから、汗もさらさらでにおわなくなるんだけど」
なかなか働くパパさんたちは忙しくって、そうそうジム通いなんてできやしない。一日、朝から晩まで頑張った後に、さらに走り込みとか、それはもうただの苦行にほかならない。
かといってたまの休みに家族をほっぽり出して、一人ランニングとかもちょっと寂しいものがある。
その辺のことに触れるのみにとどめたアイちゃん。あえて自分のお父さんについては言及しなかった。そんな態度に、みんなは彼女の思いやりを感じて、それ以上はあえて追及しないでおくことにする。
「汗かぁ……、うちのお父さんはサウナが好きで、よく仕事帰りに寄って来るよ。でもわりとにおうかなぁ。べつにイヤとかじゃないけど、男性特有っていうのかな。弟なんかはお母さんのタオルケットとかにはよろこんで潜り込むけど、お父さんのはわりと本気で逃げてるし」
そんな話を披露したのはリョウコちゃん。
まぁ、小さい子はお母さんのニオイ、大スキだからね。
対してお父さんのニオイってどんなの? ってたずねたら「タバコのにおい」とか「お酒のにおい」とか「ゴロゴロしてるニオイ」とかよくわからないことばかり頭に浮かぶのが大半。
ちなみにリョウコちゃんのお父さんが汗をバンバンかいているのに、なんか枕からヘンなニオイがするのは、サウナ上がりにビールを一杯ひっかけてくるから。せっかく通りがよくなった汗腺にかわりにアルコールを流すがゆえの現象である。
「お酒もあったか……、だったらヨーコ先生はどうなんだろう」
ミヨちゃんの何気ない発言を受けて、みんなの視線が自然と黒板に向かって次の授業の準備をしていた先生の背中に。
その瞬間、先生の肩がびくり。
どうやら生徒たちの話が耳に届いていたようだ。
幼女たちの加齢臭話に内心、おかしくってしようがなかった女教師。しかしその矛先がまさか自分に向かってこようとは予想だにしなかった。
とたんにピンチとなったヨーコ先生。
これを前にしてヒニクちゃんが助け船をだす。
「嫁入り前の女の枕はニオイなんてしない」
かわいい着ぐるみの中に、中の人なんていない。
カッコいい変身ヒーローの中に、中の人なんていない。
世の中には触れてはならぬ禁忌が存在するもの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる