ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

401 茨の道

　
　自分の肩に手をやりモミモミ。
　ふにゃふにゃにて、ぷにぷに。
　それもそのはず、なにせピチピチの小学二年生の幼女の肩だもの。
　友だちの肩にもふれてみる。
　わしゃわしゃモムとたいそうくすぐったがられて、イヤがられた。
　それを見ていた他の子たちは、あわてて逃げ出す。
　そんなみんなを追っていた鬼さんはミヨちゃん。くせっ毛のはしをピコピコゆらしながら追いかけては、捕まえたクラスメイトの子を片っ端からモミまくった。
　だがみんなやわらかい。だってみんな小学二年生だもの。
　むしろこの年で肩がカチンコチンだったら、わが国の将来はいささか不安だ。
　ではミヨちゃんが突如として、何故にこのような行動に走ったのかというと、理由はこうだ。

　家のリビングにて。
　おばあちゃん、自分の手で肩をトントン。「あー、お茶の席はやっぱり肩こるわぁ」
　お母さん、自分の手で肩をトントン。「あー、重たい。牛乳パックが地味にこたえる」
　お父さん、手動のマッサージ器で「あぁぁぁぁ」と奇声を発しつつ「パソコンが目から肩にくる。夕方がつらい」
　大学院生ヒロ兄ちゃん、肩をぐるぐる回し「筋肉が固まる。シャワーで横着したらダメだな」
　高校生のタカ兄ちゃん、ケロリと「肩こりなんぞ若者には関係ないね」と豪語するも、すかさず周囲から、「じきにお前もこっちの仲間入りさ」と言われちょっとビビる。
　家族みんなが肩こりでつながっている。
　なのに末娘の自分だけがのけもの。
　ちょっと寂しくなったミヨちゃんは気をまぎらわせるためにテレビの電源を入れた。
　するとドラマの中でまでキレイな女優さんが「あー、仕事しんどい。あの部長といっしょにいると肩がこってしようがないよー」とイケメンの彼氏にぼやいていた。
　チャンネルを変えたら健康番組にて、肩こり特集。
　もう一回、チャンネルを変えたら、そっちでも健康番組にて、肩こり解消法が取り扱われており、お母さんたちが「チャンネルはそのままで！」と言って、そろって画面に食い入る始末。
　みんな肩こりに夢中、一人話題に取り残されたミヨちゃんはトボトボと二階の自室にもどると、ベットにぼふんとダイブ。
　そして枕をポフポフ叩きながら「おとなって」「肩こりって」と静かな怒りをぶつけた。
　幼女の怒りは日をまたいでもまだおさまらない。
　で、みんなを夢中にさせる肩こりのことを、敵のことをまずは知るべきだと判断しての、この凶行。

　事情をきいたアイちゃん、チエミちゃん、リョウコちゃん、ヒニクちゃん、そろって「えー」という顔をした。
　そして内心でこう思わずにはいられない。

「それはべつに仲間外れでもいいかな」と。

　だがどうにかしないとミヨちゃんに肩をもまれる。
　それはとってもこそばゆい。そして子どもはくすぐりにとっても弱い生き物。
　もしもこんな遊びがクラスで流行りだしたらとんでもないことになる。
　そこで一計を案じたのはアイちゃん。

「そんなに肩こりがしりたいのならば、先生に頼めばいいじゃない」
「ヨーコ先生？」
「あー、いや五組のサユリ先生がいいんじゃないかなぁ」

　五組の担任のヤマモトサユリ先生。
　おっとりした雰囲気の女教師で、その胸の大きさがとみに有名。
　この小学校で爆乳といえばサユリと言われるぐらいに、みんなが認知。
　そんな彼女の口ぐせは「ふぅ、肩がこってしょうがないわ」である。
　アイちゃんの意見を聞いたミヨちゃん、「わかった！　ちょっと行ってくる」と元気よく教室を飛び出していった。
　おかげで教室の平穏は守られた。
　ただし片隅にて教員用の席に座っていたヨーコ先生は、一人さみしげに窓の外を眺めてポツリとつぶやく。「乳がなくても肩は凝るもん」
　これにおもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「持つ者と持たざる者の相互理解への道は果てしなく遠い茨の道」

　胸がおおきいと肩がこりやすいという話をよく聞く。
　でもよくよく考えたら、これって太っているおっさんが、
　腰を痛めるのと理屈は同じようなもの。そう考えると、ねえ？
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。