上 下
400 / 1,003

400 弟

しおりを挟む
 
 川辺の決闘でボスに敗北した自称サムライのオッサン。
 翌日には姿が消えていた。
 荷物もさっぱり無くなっており、わざわざ付近を掃除したのか、橋の下がやたらと小奇麗になっていた。
 これをみたミヨちゃんは寂しげにつぶやく。

「そっか、また修行の旅に出たんだね。剣に生きるのってたいへんだなぁ」

 なんだかんだで懐いていたミヨちゃん、自分がよかれて思ってヒニクちゃんに頼んで、ライバルとなりうる存在をあてがってもらったのだが、結果として別れが待っていた。
 武に生きる男ゆえに、それも仕方がないことなのかもしれないけれども、ちょっとへんにょりしてしまう幼女。
 ポフポフとヒニクちゃんに背中をやさしくたたかれながら、励まされ「きっと、また会えるよね」と顔をあげて歩き出す。
 いつまでもくよくよとしてたって、しょうがないもの。

 ミヨちゃんとヒニクちゃんの足が自然と向いていたのは、やっこ姉さんの家。
 へこんだときには、元芸者の姉さんにピリリと気合を入れてもらうにかぎる。
 あと美味しい緑茶と茶菓子で元気モリモリ。

「やっこ姉さん、いるー?」
「あいよー、縁側に回っておいで」

 ミヨちゃんが門から声をかければ、家の奥からそんな返事がかえってきたので、言われた通りに裏の庭の方へとまわった幼女たち。
 するとそこには懐かしい姿が……。

「あれ? オッサンがいる」しんみり別れを惜しんで、わずか三十分足らずで再会。これにはおもわずミヨちゃんは言った。「なんでここにいるの、ひょっとしてヒモ?」
 これにはオッサン、あわてて「ちがう」と否定。だが幼女たちの視線は冷たい。だってどこからどう見ても女の家に転がりこんだ甲斐性なしにしか見えないもの。
 極めて客観的な意見をつきつけられて、オッサン涙目。
 そのときクツクツ笑いながら湯飲みをのせたお盆を持って、姿をあらわしたのはやっこ姉さん。

「あははは、ほら見な。子どもは正直だよ。それが世間さまの貴重なご意見ってやつだ」
「そんなぁ、姉ちゃんまでひどいぞ」
「えっ! お姉ちゃんって、もしかして二人って」

 二人の気安げなやりとりにおどろくミヨちゃん。
 そう、やっこ姉さんとサムライオッサンは紛れもない、実の姉弟。
 弟さんがいたなんて話、ついぞ聞いたことがなかった幼女たちは、これにはたいそうおどろくも、やっこ姉さんの「いや、さすがにこんなのを胸はって喧伝できるほど、わたしも図太くはないから」という言葉に、納得。
 うっかり話題にして「弟さんですか? ちなみにご職業は」とたずねられて「元気にサムライ気取って各地を放浪しています」とは確かに答え辛いもの。
 かといって適当そうにみえて、お金が必要なときには日雇いの仕事もするし、旅先にて農家の仕事を手伝って食事にありついたり、自分で野山からまかなったりと、しっかり生きている。
 ふつうの社会の枠にこそおさまってはいないものの、人間は出来ている。
 格好だけの背広組よりよっぽど好漢。
 ふらふらしてるけど遊んでるわけじゃない。むしろ修行僧のごとき厳しい鍛錬を己にかしている。贅沢もしない。ときには災害援助ボランティアにも参加しているというし、ある意味、とってもストイックな人生。他の人よりもちょっぴりワイルドなだけだ。

「ひょっとしてインドとか行ったら、すっごい尊敬されるんじゃないのかなぁ」とミヨちゃん。
 仙人っぽいヨガな人とか、とっても尊敬されるとうろ覚えな根拠に基づく発言。
 するとオッサンは言った。

「インドかぁ、なつかしいな。一時期いたんだが、いろいろあって出禁を喰らってね」

 あれほど精神的におおらかそうな国から「おまえ、もう来んな!」と言われたオッサン。そこのところがもの凄く気になった幼女たちが、いくらせがもうとも、どうしても教えてもらえなかった。
 これにはミヨちゃんも頬をプゥーと膨らませる。まるでエサを頬張るハムスターのようで、ちょっとかわいいとか思いつつもヒニクちゃんがぼそり。

「インドで人生観変わる説。ただのカルチャーショックっぽい」

 ところかわれば習慣、考え方、服装、食べ物、みなかわる。
 普段とちがうモノに接すれば、そりゃあ色々影響受けるのが当たり前。
 あと精神性を悠遠なるガンジス川に例えるけれども、連中わりと短気。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...