389 / 1,003
389 博物館
しおりを挟むミヨちゃんはモフモフが大すき。
飼ってもいないのに専門誌を読み漁るぐらいに恋い焦がれている。
だけれども、なぜだか生まれながらに蛇蝎のごとく嫌われている。
どれくらいの嫌われ具合なのかと言うと、誰にでも愛想をふりまく子犬や子猫ですらもが、鬼の形相を浮かべて、まだ牙や爪も満足に伸びていないのに威嚇するほど。
理屈ではない、魂レベルにてケモノたちをそうさせる何かがミヨちゃんにはある。
かつて駅前で人気の占い師にみてもらったことがあったが、彼女は顔を真っ青にしてガクブルふるえるばかりにて、ただの一言もアドバイスを口にはしなかった。
そして次の日にはもう居なくなっており、それ以降、その女占い師の姿をこの街で見かけた者は誰もいない。
そんなワケで最寄りの動物園からも遠慮してくれと、出禁を喰らっている幼女。
これまでにもなんとか仲良くなりたいと、それはもう涙ぐましい努力を重ねてきた。
そんなあくなき挑戦の歴史をまじまじと眺めてきたのは、彼女の親友のヒニクちゃん。
しかし世の中には努力だけでは越えられない壁がある。
小学校二年生にして早くもそれを悟ったヒニクちゃんは、とりあえず発想の転換をはかる。
モフモフに触れたい。
でも触れない。
なぜなら無茶苦茶怒られて、全力にて拒絶されるから。
ならば拒絶されない状況の相手との接触を試みるのはどうだろう?
麻酔で昏睡中ならばイケるとおもわれるが、あいにくとそんな状況下のアニマルに触れさせてくれる獣医さんの知り合いなんていない。
よしんばいたとして、そんな獣医は人間として信用ならぬからノーサンキュー。
となれば、あとはただ一つ。
死んでるケモノであれば触れられる。
高級ブティックとかにいけば、高級な毛皮のコートとか襟巻とかありそうだけれども、そんなお高いお店、子どもが出かけて行っても入れてくれるわけもなく。
子どもがいっても歓迎される場所を考えた結果、導き出された答えが博物館であった。
「えー、ハクセイなの。それってちょっとちがう気がする」
ミヨちゃん、温もりのないモフモフはモフモフじゃないよ。
とかなり不満げ。
それを「まあまあ」とヒニクちゃんがなだめてのご来館。
とりあえずハクセイから始めましょうと、よくわからない理屈にて言いくるめる。
あと小学生低学年だとタダだし。
はじめは全然乗り気じゃなかったミヨちゃん。
しかし館内に展示されている各種アニマルたちのハクセイを前にすると、とたんに機嫌がよくなった。
丹精込めてつくられたハクセイたちは、さながら生きているかのような迫力にて。
「イノシシでかっ! クマよりおおきいじゃん」
「キツネ、かわいい。シッポがセクシー」
「トラ、かっこいい」
「へー、タヌキって世界的にはめずらしいのかぁ」
「ユキヒョウかわいい。あれのヌイグルミほしい」
「シロクマって肌は黒いんだ。てっきり中も美白なのかとおもってたよ」
普段は図鑑や映像でガマンするしかなかった、動物たちと間近に接せられて、最初の頃の不機嫌さがウソのようにはしゃぐミヨちゃん。
この博物館では触れるコーナーもあって、これ幸いと触れていいすべての展示物に手を伸ばすミヨちゃん。
「これがモフモフの手触り。これでもしも生きていたら……ゴクリ」
感無量にて、その手の中の感触を何度も噛みしめるかのようにして堪能するミヨちゃん。
そんな親友の姿に目を細めていたヒニクちゃんが、ぽつり。
「これは一度、インプリンティングを試してみるべき?」
刷り込み、卵からかえった直後のヒナが最初に見た者を親だと
勘違いする学習現象のひとつ。これならばさすがに懐くだろう。
ただ道義的に心が痛むので、やはり逃げた占い師を探すべきか。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる