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389 博物館

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 ミヨちゃんはモフモフが大すき。
 飼ってもいないのに専門誌を読み漁るぐらいに恋い焦がれている。
 だけれども、なぜだか生まれながらに蛇蝎のごとく嫌われている。
 どれくらいの嫌われ具合なのかと言うと、誰にでも愛想をふりまく子犬や子猫ですらもが、鬼の形相を浮かべて、まだ牙や爪も満足に伸びていないのに威嚇するほど。
 理屈ではない、魂レベルにてケモノたちをそうさせる何かがミヨちゃんにはある。
 かつて駅前で人気の占い師にみてもらったことがあったが、彼女は顔を真っ青にしてガクブルふるえるばかりにて、ただの一言もアドバイスを口にはしなかった。
 そして次の日にはもう居なくなっており、それ以降、その女占い師の姿をこの街で見かけた者は誰もいない。

 そんなワケで最寄りの動物園からも遠慮してくれと、出禁を喰らっている幼女。
 これまでにもなんとか仲良くなりたいと、それはもう涙ぐましい努力を重ねてきた。
 そんなあくなき挑戦の歴史をまじまじと眺めてきたのは、彼女の親友のヒニクちゃん。
 しかし世の中には努力だけでは越えられない壁がある。
 小学校二年生にして早くもそれを悟ったヒニクちゃんは、とりあえず発想の転換をはかる。
 モフモフに触れたい。
 でも触れない。
 なぜなら無茶苦茶怒られて、全力にて拒絶されるから。
 ならば拒絶されない状況の相手との接触を試みるのはどうだろう?
 麻酔で昏睡中ならばイケるとおもわれるが、あいにくとそんな状況下のアニマルに触れさせてくれる獣医さんの知り合いなんていない。
 よしんばいたとして、そんな獣医は人間として信用ならぬからノーサンキュー。
 となれば、あとはただ一つ。
 死んでるケモノであれば触れられる。
 高級ブティックとかにいけば、高級な毛皮のコートとか襟巻とかありそうだけれども、そんなお高いお店、子どもが出かけて行っても入れてくれるわけもなく。
 子どもがいっても歓迎される場所を考えた結果、導き出された答えが博物館であった。

「えー、ハクセイなの。それってちょっとちがう気がする」

 ミヨちゃん、温もりのないモフモフはモフモフじゃないよ。
 とかなり不満げ。
 それを「まあまあ」とヒニクちゃんがなだめてのご来館。
 とりあえずハクセイから始めましょうと、よくわからない理屈にて言いくるめる。
 あと小学生低学年だとタダだし。
 はじめは全然乗り気じゃなかったミヨちゃん。
 しかし館内に展示されている各種アニマルたちのハクセイを前にすると、とたんに機嫌がよくなった。
 丹精込めてつくられたハクセイたちは、さながら生きているかのような迫力にて。

「イノシシでかっ! クマよりおおきいじゃん」
「キツネ、かわいい。シッポがセクシー」
「トラ、かっこいい」
「へー、タヌキって世界的にはめずらしいのかぁ」
「ユキヒョウかわいい。あれのヌイグルミほしい」
「シロクマって肌は黒いんだ。てっきり中も美白なのかとおもってたよ」

 普段は図鑑や映像でガマンするしかなかった、動物たちと間近に接せられて、最初の頃の不機嫌さがウソのようにはしゃぐミヨちゃん。
 この博物館では触れるコーナーもあって、これ幸いと触れていいすべての展示物に手を伸ばすミヨちゃん。

「これがモフモフの手触り。これでもしも生きていたら……ゴクリ」

 感無量にて、その手の中の感触を何度も噛みしめるかのようにして堪能するミヨちゃん。
 そんな親友の姿に目を細めていたヒニクちゃんが、ぽつり。

「これは一度、インプリンティングを試してみるべき?」

 刷り込み、卵からかえった直後のヒナが最初に見た者を親だと
 勘違いする学習現象のひとつ。これならばさすがに懐くだろう。
 ただ道義的に心が痛むので、やはり逃げた占い師を探すべきか。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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