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385 フリーマーケット

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 日曜日の午前十時、快晴の下。
 市内のグラウンドにて開催されていたのは、フリーマーケット。
 一般人から行商人、商店街の店主なんかも参加しており、膨大なアイテムがお得な値段でズラリと出並ぶ。
 このイベントに軍資金の五百円玉を握りしめて参加していたのは、ミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
 奮発すればもう少し予算を用意できたのだけれども、あえてこの金額に設定。
 限られた予算の中で、いかに欲しい品をゲットできるかに頭を悩ませる。縛りプレイをあえて敢行。だってその方が楽しいから。
 軍資金がケタ違いの大人買いにも憧れるけれども、あれは自分が大きくなって経済的に自立してから楽しめばいい。
 小さな子どもには小さな子どもにしか出来ない楽しみ方というものがある。
 遠足のオヤツ三百円とかが真剣に楽しめるのは、若いうちだけなのだから。

 大勢の人たちでひしめく通りを歩く幼女たち。
 通路を広めにとってくれているので、子どもどころか乳母車を押してるママさんや、日傘を広げたご婦人たちでも悠々と通り過ぎることが可能。
 木陰なんかにはベンチを用意したり、トイレの案内が設置されていたりと、地味に整備が行き届いている会場。
 どうやらよほど出来る人物がイベントを担当したようだ。

「こんかいは当たりみたいだね。前回がわりとヒドかったから、ちょっと心配してたんだけど、安心したよ」

 左右をキョロキョロしてお店を物色しつつ、ミヨちゃんが感想を口にする。
 前回は事前予約を受け付けることなく、場所取りを当日の早い者勝ちという横着をした結果、予想以上に大勢の出店希望者が詰めかけて、会場大パニック!
 どうやら担当した市役所のおっさんが、「フリマ? ただのバザーだろ。そんなもん、適当でいいよ」とか甘く考えていたらしい。
 で、怒号渦まく剣呑さにて、モタモタしているうちに開始時間がやってきて、客まで流入してきたものだから、会場はもうひっちゃかめっちゃか。
 あまりのグダグダゆえに、ついには警察までが出張ることに。
 これによって騒ぎは沈静化するも、どうにか体裁を整えてフリーマーケットが開催されたのは、お昼過ぎという体たらく。
 市主催のイベント史に確実に黒い汚点となった悪夢。
 大人たちのダメさ加減に、幼女たちも唖然とするばかりだった。
 それを思い出しての、ミヨちゃんのしみじみ発言。
 これにはヒニクちゃんもウンウンとうなづき同意を示す。
 なお前回の反省を活かし、今回は事前申し込みによる抽選にての区分け。
 出店側の参加者数も制限を設けて、会場全体にも気配りが行き届いている。
 やれば出来るじゃん。と感心する幼女たち。
 だがその実体は、イベント運営企画の会社に丸投げということを彼女たちは知らない。

 あちこちざっと見物してからミヨちゃんたちが突撃をかけたのは、文房具のお店。
 イラスト入りのエンピツとかノート、いい匂いがする消しゴム、可愛い小物がわんさかにて、どれでも百円以下というわかりやすい商いにて、子どものお財布にもやさしい価格設定。
 おかげで結構な数の子どもたちが群がっていた。
 さながらバーゲン会場のようなありさまにて、懸命に目星をつけた品に手を伸ばすミヨちゃん。狙うは猫のイラストが可愛らしいエンピツ。
 モフモフが好きだからこその選択。でもモフモフが好きであるがゆえに使えないエンピツ。だって削ったら表面のイラストが消えちゃうもの。
 大いなる矛盾をはらんだ魅惑の商品。だがこの手の商品は実は文房具系にけっこう多い。アニマルな形の消しゴムとか絶対ムリ。かといって大事にとっておいたら、夏の暑さでドロリとちがう生物に変化してたりするから困りもの。
 それでもついつい欲しくなっちゃう。
 引き出しの肥やしとする覚悟がないと手が出せない品。
 どうやらミヨちゃんは、とっくに覚悟を決めているようだ。ならば友として何も言うまい。黙ってその生き様を見届けるのみ。
 そんなヒニクちゃんが手にとって吟味していたのは、一本の黒のボールペン。
 クルクルと見事に回しては、なにやら感触を確かめていた。
 まるで生きているかのように、巧に手の上にて踊るボールペン。
 お忘れの方も多いだろうが、彼女はペン回しが得意なのである。
 じっくりいろいろ吟味を重ねてから、珠玉の一本を選んだヒニクちゃん。
 気に入ったので同じ商品を五本お買い上げ。
 その頃にはミヨちゃんもお目当ての品を無事にゲットしていた。

「いいのあった?」

 満面の笑みを見せるミヨちゃんに、ヒニクちゃんもおもむろに口を開く。

「良筆との出会いは一期一会」

 お気に入りの品が販売中止とかになると、けっこうこたえるモノ。
 長く愛用する品であればあるほど、しっかり確保しておくべし。
 必要経費をケチると、絶対にあとで後悔して、かえって高くつくから。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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