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378 コンビニ飯
しおりを挟む学生時代にお世話になった恩師が他界。
やや遠方にて、一晩ばかり家を留守にすることになったのはミヨちゃんのお母さん。
いつもならばおばあちゃんがいるから、特に困ることもないのだが、あいにくと俳句サークルの句会旅行に出かけており、こちらも不在。
結果として父、長男、次男、末妹の四人でお留守番することに。
そこで問題となったのが夕ご飯。
父親が帰って来るのを待つと夜の九時頃になってしまい遅すぎる。
かといって子どもたちだけで外食では、ボッチのお父さんが可哀想とミヨちゃん。
店屋物を頼むにしても、やっぱり四人が揃ってないと具合がわるい。
そこで二十四時間年中無休で頑張ってくれているコンビニエンスストアを頼ることにしたヤマダ一家。
お父さんは仕事の合間にちょろちょろと利用。でもお財布に優しくない定価販売なので、買う品は限られている。
大学院生の長男は泊りがけの実験とかの際には、わりとお世話になっている。
高校生の次男も学校帰りとかに、たまに立ち寄って買い食いなんかを楽しんでいる。
小学校二年生の末妹は、トイレの利用と涼みがてらの立ち読みメイン。
だからミヨちゃん、ちょっとワクワク。
だって、テレビのコマーシャルとかでバンバン美味しそうな新商品が紹介されているのは、しょっちゅう見かけるけれども食べる機会なんて、あまりなかったから。
夕方に兄たちに連れられての来店。
こんな時間に来るのもはじめてにて、一歩自動ドアをくぐったとたんに、まぶしい店内の照明に目を細めるミヨちゃん。
店の中はキラキラと輝いており、時間帯のおかげで棚には商品がパンパン。
おにぎりだけで十種類以上もある。
サラダにパスタにお弁当。
パスタ一つとっても数種類もあって、なかにはビッグサイズとかいうのまである。
かとおもえば可愛らしいサイズのお弁当もあったりして、色とりどりの食材、和洋中が入り乱れての共演に、幼女は目移りしっぱなし。
「どれでも好きなのを選びな。あとあっちにはデザートもあるぞ」と大学院生のヒロ兄。
「なんならパンにするか? けっこうイケるぜ」と高校生のタカ兄。
ただでさえ迷いまくっているところに、デザートやらパンまでもがチラついて、ミヨちゃん大弱り。
なにせ食べたことがないものばかりにて、どれがいいのかまるで見当もつかない。
で、結局、悩みに悩みまくった挙句にミヨちゃんが選んだのはビッグサイズのハンバーグがはいったお弁当。
お父さんにも同じモノを選び、二人の兄たちは各々好きな品を選ぶ。
会計をすませて帰宅したヤマダ三兄妹。
あとは夕飯の時間になったら、家の電子レンジで温めて食べるだけ。
味は、まぁ、それなりに。
ボリュームも、まぁ、それなりに。
そして値段も、まぁ、それなりに。
ただ、テレビのコマーシャルでやんやと騒ぐほどではないかな。
というがミヨちゃんの率直な感想。なにせまだまだお子ちゃまにつき、お母さんのハンバーグに勝るものなしなのである。
そんなことがあった翌日の下校中。
いつものように仲良しのヒニクちゃんといっしょにトテトテ帰っていたミヨちゃん。
夕べのコンビニ弁当の食卓について語る。
「便利なのはたしかなんだよ。ゴミは出るけど洗い物が出ないし。でもねえ、なんていうか……、テーブルのうえがすっごくさみしいの」とミヨちゃんぽつり。
いつものテーブルの上には、コンビニで買ってきたお弁当が三つ。
それを黙々と食べる三兄妹。
市販品ゆえに味はしっかりとついている。むしろいつもよりずんと濃いぐらいだ。
なのにどうにも味気ない。
どこか寒々しい雰囲気にて、食卓が盛り上がらない。
ぶっちゃけ、なんか侘しい。一回経験したら、もういいかな。
とミヨちゃんはおもった。
そんな友人の体験談を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「チンで温かくなるのは料理だけ。愛は冷めたまま」
家庭の味は千差万別、よって再現は不可能。
企業の愛、開発者の愛、製造者の愛、搬入する人にレジの人の愛。
コンビニ弁当にも愛はいっぱい詰まっているのに、でも電子レンジが。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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