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366 落とし物

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 早朝のことである。
 ミヨちゃんがいつものように登校していると、道に何やら落ちている。
 拾ってみたら女性の下着、ブラジャーである。
 白のレースのヒラヒラな精緻な造り、いかにも高そうな品。
 しかもデカい。
 なんだコレは? とミヨちゃん周囲をキョロキョロ。
 が、ここは往来のど真ん中にて、近くには丁度、住宅などの姿がない場所。
 洗濯物が風に飛んでうっかり、とはちょっと考えられない。
 かといって、さすがの天然炸裂の女性でも、歩いていたらポロリと外れて落としたなんてことはないだろう。
 だが何よりもその扱いに困った。
 手袋とかキーホルダーとかならば、その辺の目立つところ置いておくことも出来る。
 しかし、さすがにブラジャーを電柱にぶら下げるわけにはいくまい。
 かといって地面に置きっぱなしというのも、気が引ける。うっかりデリカシーのない男の子にでも拾われようものならば、きっとオモチャにされてしまう。
 それは同性としてとても看過できない。
 本当であれば交番に届けたいところだが、生憎とこの先の通学路付近にはない。
 なにより時間がない。あんまりのんびりしていると遅刻しちゃう。
 いろいろと悩んだ結果、ミヨちゃんはこれを自分のランドセルに突っ込んだ。

 で、上履きに履き替えた後に朝の職員室に直行し、担任のヨーコ先生に丸投げ。
 朝一にて教え子から奇妙な落とし物を預かったヨーコ先生の第一声が「デカっ!」であった。
 教室にて、今朝方、そんなことがあったとミヨちゃんが話すと、アイちゃんが「あー、処理に困る落とし物って、たまにあるよね。なんでこんなところに、こんな物が? ってのが」
「あるある、踏切に落ちてる小さな子のクツの片方とか。アレってちょっと怖いよね」とはチエミちゃん。踏切と靴とか、ちょっと嫌な想像をしてしまうと、肩をぶるる。
「アレは自転車の後ろにのってる小さな子が、足をぶらぶらしているうちに、ポロリとしちゃっただけだから。うちの弟もたまにやらかして、お母さんが家に帰ってからあーってなってるの何度か見たよ」

 真相を説明したのはリョウコちゃん。そんな彼女は一度、現金がパンパンの財布を拾ったことがあるそうな。ほんの一瞬だが、悪魔の声を聴いたような気がしたと、当時のことをふり返える彼女は、きちんと交番に届けたそうな。たかが財布でこの程度、それこそ竹やぶなんぞで億の入ったカバンを拾ったりしたら、心臓が破裂してしまうとリョウコちゃんは笑う。

「困るといえば自転車のカギなんかもそうかなぁ。あれって絶対になくすと困るでしょう? だから見つけたらちゃんと届けてあげたいんだけど、場所によってはそうもいかないし」とミヨちゃん。
「必死に探していたら、かえって悪いからねえ。そのときは目立つところに置いておくのが親切かも」とはチエミちゃん。

 みんなと落とし物談義にひとしきり華を咲かせたミヨちゃん。
 しみじみと「でも、なんであんなところにブラジャーがあったんだろう」と首をかしげる。
 周囲に民家の無い場所に落ちている女性ものの下着。
 ちょっぴり大人の世界なことを想像して、誰もが口をつぐむ中、ひとり口を開いたのはヒニクちゃん。

「落とし物は落とし物でも、たぶん下着ドロの落とし物」

 下着泥棒に注意しましょう。というポスターが街中でちらほら。
 どうやら地域で頻発しているらしい。それだけの大物であれば、
 これを見逃すなんて考えられない。でも一度下着ドロが手にした品なんて
 せっかく返却されてもノーサンキュー。っていうか弁償しろ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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