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364 へび石
しおりを挟むつい先日、学校で出された自分たちの郷土への理解を深めるための宿題。
それの提出はつつがなく済み、ヨーコ先生のもとにはけっこうな資料が集まった。
せっかくなのでこれをまとめた小冊子を子どもたちに配った先生。
だいたい同じアプローチにて調べたので、まぁ、似たり寄ったりの内容が羅列されるものの、自分たちが集めた情報が本になるのは、ちょっとうれしい。
だからキャイキャイ友だちらと騒ぎながらページをめくっていたミヨちゃん。
その手が、ふと、止まる。
クラスメイトの女の子の書いた内容にて、そこには「へび石」なる記述があった。
名前だけでも、おっと目を惹くというのに、手書きのイラストとサイズがこれまた幼女の興味をそそるもの。
全長約六メートル、幅約二メートル、推定重量四トン、長方形をしており、郊外の林の中にぽつんとある巨岩にて、いつの頃からここにあるのかわからないほど、ずっと前から転がっている。
まるで人の手が入ったかのような石の表面、まるで鬼のテーブルみたいにて、事実、鬼机なんて呼ぶ人もいるとかいないとか。
なのに何故か「へび石」という名が地域にて定着。
その理由は不明。
ひょっとして遺跡の類では? と市より依頼を受けて、さる大学の先生が調査したこともあるが、その結果、人の手は入っておらず、あくまで自然の石であることが判明。
巨石を並べて飾り祀ることもあるが、これとも違う。
念のために付近の地中を音波で探ってみるも、これといった反応はなし。
これにはみんながっかり。ひょっとしたら地元の名所になるかもとの目論見があったのだが、どうやらそれは皮算用で終わる。
が、それとは別に謎が残る。
石の成分と周囲の地層とは別物だということ。
また周囲には似たような石もまるで見当たらない。
完全に孤立状態にて、何の脈絡もなく、林の中にポツン。
こうなると考えられるのは人力にてどこぞより運んできた、もしくは運ぶ途中にて何らかの理由にて遺棄されたと考えられるのだが、これほどの石の移動ともなれば結構な騒ぎにて地元になんらかの話が伝わっていてもおかしくはない。
だがそれも皆無。
これには大学の先生も首を傾げるばかり。
謎は謎のまま現在へと至る。
この話にミヨちゃん、なにやらウズウズ。
「これは、いわゆる、一つのミステリースポットってやつだよ。まさか近くにこんなおもしろスポットがあったなんて! これはぜひとも行ってみなければ」
幼女は俄然、やる気となった。
で、放課後にいったん帰宅した後にヒニクちゃんと二人で、その林へと足を運ぶ。
そこは鬱蒼とした林であった。
奥へ奥へと進んでも、ステキなワンダーランドなんて待ってはおらず、ますます薄暗く、そしてやぶ蚊がブンブン。
念のために事前に虫よけスプレーを互いに吹きかけまくったおかげで、二人はへっちゃら。ずんずん進む。
しばらくいくとそこいらに嫌のものを見つける。
文字がにじんだカマボコ板、地面に突き立てられた十字に組まれた杭、積まれた石……。
「うわーっ、これってお墓だよねえ。あー、たしかに埋めるにはいい場所なのかも」
あまり気持ちのいい光景ではないので、ミヨちゃん、ぶるると肩をふるわせる。
「なんだかミステリーはミステリーでも、サスペンス要素が強まってきた気がする」
ふしぎ系を期待していた幼女が、ボヤキだしたところで、ようやく目的地に到着。
あの記事にあったように、それは林の奥のひらけた場所に、ポツンと存在していた。
石があるせいか、その周囲には木が生えておらず、ここだけ木漏れ日を受けて明るくなっている。
謎の「へび石」が陽を受けて輝く姿は、どことなく神秘を感じさせ、眺めていると厳かな気分に。
とりあえず拝んでおくかと、パンパン手を合わせた二人。
だがそのおかげで、かつて大学の先生も解けなかった謎のひとつを、彼女たちは解き明かす。
まるで二人の柏手に誘われるかのようにして、にょろりと姿をあらわしたのは蛇。
石のしたから、ぞろぞろ、ぞろぞろ、ぞろぞろ。
これを前にしてミヨちゃんとヒニクちゃんが一目散に逃げ出したのは、言うまでもない。
ギャーッと逃げるミヨちゃんの背を追いながら、ヒニクちゃんがぽつり。
「なるほど。へびが住み着いているから『へび石』か」
人気のない静かでジメジメした林の中。エサには不自由しなさそう。
大きな石は日中には木漏れ日を浴びて、きっとポカポカ。
あの下ならば子育てには最適。調査したのはシーズンオフだったのね。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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