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353 ショック
しおりを挟む「ここ最近、いちばんショックだったことって、ナニ?」
いきなりこんな質問をぶつけられたら、誰だってちょっとドキリとしてしまう。
ましてやキチンと席に座って、両手を組んで、どこぞの司令官がとりそうなポーズにて、ギロリと睨まれてのこととあっては、やられた方は、もうワケがわからない。
質問をしたのはミヨちゃん。
質問を受けたのはチエミちゃん。
運悪く座席の側を通りがかったのせいで、ヘンテコなことに巻き込まれてしまった。
「えっ! ショックだったことって急にいわれても。えーと、えーと」
悩む級友に、「あと十五秒以内に答えよ。さもなくば罰ゲームを執行する」と無情にも告げるミヨちゃん。その姿は司令官というよりも、もはや時代劇の悪代官といった風。
あわててチエミちゃん「次の日に食べようと思っていたアイスが、夜のうちにお父さんに食べられていたことかな」
必死になって絞り出した答え。
それを耳にしてミヨちゃん、「へっ」と鼻で笑ったものの、「まぁ、いいでしょう」と何故だか上から目線にてこれを許す。
何が悪くて、何が良いのか、正解がわからないチエミちゃん。でも、なんとなくしょっぱい返事をしてしまったことに、自分でも地味の堪えて、心にダメージを負った。
次の犠牲者はリョウコちゃん。
しかしスポーツ少女は、頭の回転も速いのか、即答。
「ショックだったこと? 弟が勝手にわたしのボールを持ち出して、川に落としたことかな。油が浮かんでいたせいで、ボールがヌルヌル。よごれを落とすのタイヘンだったんだから!」
ショックに怒りのオマケ付き。けっこうな剣幕にて、質問をしたミヨちゃんの方が、やや圧倒されてビビるハメに。
次の犠牲者を探し、視線を動かすミヨちゃん。その双眸が鷹の目のようにキラリと光る。獲物と定めたのはアイちゃんではなくて、彼女に髪をセットしてもらっている担任のヨーコ先生。
本当はアイちゃんがよかったのだが、オシャレ関係の作業中に邪魔をすると、アイちゃんはむちゃくちゃ怖いのだ。ふだんは姉御肌にて面倒見がよく、寛容さが際立つからこそ、そのギャップたるや……、ぶるぶる。
そんなワケで先生に質問。
そして訊くのではなかったと、ミヨちゃん、心底後悔する。
「ショックなこと? この間ね、女友達から『これから出てこない。ひさしぶりに一杯やろうよ』なんていきなり電話をもらったんだ。それでのこのこ居酒屋に出かけて行ったら、なんと合コンでやんの。そんな話、まるで聞いてないもんだから、私なんて赤いジャージのラフな格好で行っちまったよ。わかるか? これってわざとなんだよ、わざと。わざと合コンのことを伏せて呼び出しやがった。狙いはもちろん人身御供さ。女子力最弱の戦士を召喚して、やつら自分のランクを強制的に引き上げやがった! おかげでこちとら散々よ。そりゃあ、なかには見かねてこっちに声をかけてくる野郎もいるけれども、お情けなんて、わたしはゴメンだよ。だからわたしはやってやったよ。割り勘なのを逆手にとってじゃんじゃん高い酒をあびるほど飲んでやった。おかげで相手の男連中、みんなドン引きしてやんの。死なばもろとも。ざまぁ、みろってんだ」
三十路手前、彼氏なし、今後のハッピーチャージの予定もなしの、女教師の壮絶なエピソードに、ミヨちゃん轟沈。
しばらく思考がショートとして、全機能を停止する。
五分ほどして復活したミヨちゃんが「ちなみにわたしがショックだったのは、お気に入りの少女コミックを読んでいるときに、うっかり寝落ちしちゃって、気づいたときにはヨダレの染みがついていたこと」と口にした。
どうやら彼女は、自身の悲しみを癒すために、他人の不幸をつい求めてしまったようだ。
これを受けてヒニクちゃんがおもむろに口を開く。
「人生いろいろ。だいたい後で笑い話」
上を見上げてもきりがなく、下を向いてもきりがない。
あるのは尽きぬ羨望と、誰かを卑下して己の心を疑似的に満たす浅ましさ。
ちなみに私は自販機から欲しいのと違うのが出てきたことが。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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