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352 炎上
しおりを挟む「うわーっ、あのアイドルのツイッター、やっぱり炎上してるよ」
「そりゃあ、あんな発言しちゃたら、いくらなんでも駄目でしょう」
「客商売なのに上から目線で、ファンを小馬鹿にしちゃあねえ」
そんな会話をしながら歩いていたのは、スマートフォンを見ながら歩いていた女子高生たちの集団。
歩きスマホ、ながらスマホ、危ないから止めようとの啓蒙活動も、いっかな効果が薄いことをまざまざと見せつけた、この日常風景。
政府の広報活動が予算のわりに、いまいち成果が出していない証明みたいなものなのだが、あいにくとこの場に居合わせた幼女二人は預かり知らぬことにて。
「そういえば、さいきんだよね? 炎上、炎上ってさわぐようになったのって」
そう言ったのはミヨちゃん。
近頃では小学校低学年でも携帯電話を持っている子も多いと聞くが、ヤマダ家では末妹に持たせる予定は当分ない。
なお父母と二人の兄は持っている。祖母はガラケーを愛用。
おばあちゃんいわく「ライン? ゲームに動画にネットサーフィン? メールすらも満足にしやしないのに、いらん。あと利用料金が高いわ。何もしなくても月に一万とか、どんだけ年寄りからぼったくる気だい!」とのこと。
たしかにスマートフォンの利用料金は割高。
世界基準でも比べてもわが国はかなり高いらしくって、ちょっと業界では問題になっているとかいないとか。
まぁ、それも持っていない幼女にはやはり関係がない。
手元にない以上は、どうにも実感に乏しく、それゆえに「炎上」という言葉だけがやたらと耳にうるさく残っている。
やれ、炎上商法だの。やれ、偽装炎上だの。やれ、炎上芸人だの、炎上アイドルだの。
猫も杓子も個人も企業も無名も有名も、こぞってじゃんじゃん炎上中。
完全にこの時代のビッグウェーブからとり残されているミヨちゃん。
だが、だからこそ極めて客観的に、曇りなき眼にて事態を静観できている。
そのうえでミヨちゃんはこう言った。
「いみがわからん」と。
失敗をした者、失言をした者、何やらやらかしてしまった者や集団や組織。
それらを不特定多数がよってたかって批難する。
きちんと言葉を選んでの助言なり、苦言ならばまだしも、大半が感情的な誹謗中傷。
ぶっちゃっけただの罵詈雑言。
でも、そのメッセージを送るのだって、いくばくかの手間と時間と労力と通信なり電話の電力が消費されちゃったりするわけで。しかもかっかと頭にきているわけだから、きっと体内にて貴重なカロリーも消費されているにちがいあるまい。
自分が何かをされたわけじゃない。
自分の大切な人が何かをされたわけでもない。
自分の中の大事なものが貶されたわけでもない。
なのに赤の他人がしでかしたことに対して、赤の他人が憤る。
それってすごくエネルギーのいることじゃないの? というのがミヨちゃんの見解。
それってすごくもったいないことじゃないの? というのミヨちゃんの想い。
だってソレに費やすモノを自分のために使えば、なんだか色々できちゃいそうな気がするから。
「なんだか世の中、べんりになったはずのに、かえってみんな不自由になった気がする」
このミヨちゃんの言葉を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「なにごとも距離感が大切」
いつでも誰かと繋がれるツールなのに、それが新たな孤独を産む。
かつて携帯電話が普及し始めた時、誰かが言ったのは、これで自分も
鎖につながれた犬の仲間入りかという台詞。近くて遠い画面の向こう側。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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