上 下
339 / 1,003

339 バイキング

しおりを挟む
 
 駅前のホテルの一階と最上階にはレストランがある。
 一階のほうはわりと庶民向け。
 最上階の方はかなり高級志向。
 夜景を眺めながらコース料理に舌鼓をうちつつ、一本ウン十万円もするワインをグビリとやって、お金持ちたちが優越感に浸ってる。
 ……ような気がするとはミヨちゃん。
 本日はちょっぴりおめかしして、よそ行きの格好。
 となりには同様におめかしをしているヒニクちゃんの姿がある。
 ここはホテルの一階ラウンジ。
 ミヨちゃんのおばあちゃんに連れられてのランチバイキングと、しゃれこんだのだ。
 一階の庶民派の方で開催中につき八歳までは無料。
 小学二年生の二人は、だからタダ。
 でも子どもだけで来ても中に入れてもらえるわけもなく、そこで孫娘が祖母におねだり。
 年寄りに幼女二人にて、食べられる量なんてたかが知れている。
 しかも場所は地方都市のビジネスホテルに毛が生えたようなところにて、お昼のコース。
 料理長がぶ厚いステーキを焼いてくれたり、職人が寿司を握ったり、パティシエが目の前でケーキをつくってくれるなんて、ステキなサービスは一切なし。
 そこそこの料理が、そこそこ並んでおり、そこそこの味を楽しむだけ。
 これにて大人、九十分、千五百円。
 ぶっちゃけホテル側も儲けるつもりはさらさらなく、客の側もそれほど期待はしていない。そこはかとなく漂うヤル気のなさ。おそらくはなんとなく流行にのって、やってみようとか軽いノリなのだろう。
 でもファミレスに行ってちょっとしたセットとデザートを食べたら、もっとかかることを考えると、好きなモノを好きなように食べて、食後のコーヒーやデザートも選び放題となれば、断然お得。
 なのに客足もやはりそこそこ。
 ネックはホテルゆえのドレスコードか?
 正直、幼女たちとてそんな面倒なところよりも、今日び、回転寿司のほうがよっぽど楽しい。
 なのにどうしてもここに来てみたかったミヨちゃん。
 そのお目当ては……。

「うぉー、ドバドバとチョコが流れてるよ。ニオイまであまあまだよ」

 ミヨちゃん興奮。ヒニクちゃんもコクコクとうなずく。
 幼女たちの視線の先にはチョコレートファウンテン。
 いわゆるチョコの噴水みたいなのっぽの機械にて、ここに果物やカステラ、マシュマロなんかをつけて、串カツのように楽しむというもの。もちろん二度づけは禁止。
 まえまえからテレビなんぞで見ていたミヨちゃん。
 ここのバイキングに並んでいると知って、これは是非ともと考えた次第。
 実際に間近にすると、モニター越しに見聞きするのとは大違い。
 さっそく食事そっちのけで、やってみよう! となったものの……。
 チョコはどこまでいってもチョコ。
 イチゴにかけてもチョコ。
 マシュマロにかけてもチョコ。
 クッキーにかけてもチョコ。
 何にかけても全部が同じチョコの味となる。
 どうやら事前の期待値があまりにも高すぎたみたい。
 ミヨちゃんのテンションが目に見えて駄々さがり。
 ヒニクちゃんにいたっては、はじめにパインチョコを楽しんでからは、チョコレートファウンテンそっちのけで、イチゴにそのままパクついている始末。
 おばあちゃんは、眺めただけで「胸が焼けそう」と近づきやしない。
 他の客たちも物珍しさにて一回やったら、もういいかな、といった風。

「いくらでも食べていいってのも、こうなると考えものだね」

 チョコ―レートの噴水をまえにして、自由の在り方の難しさを学んだミヨちゃん。彼女はまたひとつかしこくなった。
 これを受けてヒニクちゃんが口を開く。

「万物これみな師なり」

 チューペットをポキリとすることで子どもたちは分け合うことを学び、
 ジュースを回し飲みしたり、アーンとかしちゃって、互いの心の距離を知る。
 人間なんてちょいと不自由なぐらいで、ちょうどいいと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...