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339 バイキング
しおりを挟む駅前のホテルの一階と最上階にはレストランがある。
一階のほうはわりと庶民向け。
最上階の方はかなり高級志向。
夜景を眺めながらコース料理に舌鼓をうちつつ、一本ウン十万円もするワインをグビリとやって、お金持ちたちが優越感に浸ってる。
……ような気がするとはミヨちゃん。
本日はちょっぴりおめかしして、よそ行きの格好。
となりには同様におめかしをしているヒニクちゃんの姿がある。
ここはホテルの一階ラウンジ。
ミヨちゃんのおばあちゃんに連れられてのランチバイキングと、しゃれこんだのだ。
一階の庶民派の方で開催中につき八歳までは無料。
小学二年生の二人は、だからタダ。
でも子どもだけで来ても中に入れてもらえるわけもなく、そこで孫娘が祖母におねだり。
年寄りに幼女二人にて、食べられる量なんてたかが知れている。
しかも場所は地方都市のビジネスホテルに毛が生えたようなところにて、お昼のコース。
料理長がぶ厚いステーキを焼いてくれたり、職人が寿司を握ったり、パティシエが目の前でケーキをつくってくれるなんて、ステキなサービスは一切なし。
そこそこの料理が、そこそこ並んでおり、そこそこの味を楽しむだけ。
これにて大人、九十分、千五百円。
ぶっちゃけホテル側も儲けるつもりはさらさらなく、客の側もそれほど期待はしていない。そこはかとなく漂うヤル気のなさ。おそらくはなんとなく流行にのって、やってみようとか軽いノリなのだろう。
でもファミレスに行ってちょっとしたセットとデザートを食べたら、もっとかかることを考えると、好きなモノを好きなように食べて、食後のコーヒーやデザートも選び放題となれば、断然お得。
なのに客足もやはりそこそこ。
ネックはホテルゆえのドレスコードか?
正直、幼女たちとてそんな面倒なところよりも、今日び、回転寿司のほうがよっぽど楽しい。
なのにどうしてもここに来てみたかったミヨちゃん。
そのお目当ては……。
「うぉー、ドバドバとチョコが流れてるよ。ニオイまであまあまだよ」
ミヨちゃん興奮。ヒニクちゃんもコクコクとうなずく。
幼女たちの視線の先にはチョコレートファウンテン。
いわゆるチョコの噴水みたいなのっぽの機械にて、ここに果物やカステラ、マシュマロなんかをつけて、串カツのように楽しむというもの。もちろん二度づけは禁止。
まえまえからテレビなんぞで見ていたミヨちゃん。
ここのバイキングに並んでいると知って、これは是非ともと考えた次第。
実際に間近にすると、モニター越しに見聞きするのとは大違い。
さっそく食事そっちのけで、やってみよう! となったものの……。
チョコはどこまでいってもチョコ。
イチゴにかけてもチョコ。
マシュマロにかけてもチョコ。
クッキーにかけてもチョコ。
何にかけても全部が同じチョコの味となる。
どうやら事前の期待値があまりにも高すぎたみたい。
ミヨちゃんのテンションが目に見えて駄々さがり。
ヒニクちゃんにいたっては、はじめにパインチョコを楽しんでからは、チョコレートファウンテンそっちのけで、イチゴにそのままパクついている始末。
おばあちゃんは、眺めただけで「胸が焼けそう」と近づきやしない。
他の客たちも物珍しさにて一回やったら、もういいかな、といった風。
「いくらでも食べていいってのも、こうなると考えものだね」
チョコ―レートの噴水をまえにして、自由の在り方の難しさを学んだミヨちゃん。彼女はまたひとつかしこくなった。
これを受けてヒニクちゃんが口を開く。
「万物これみな師なり」
チューペットをポキリとすることで子どもたちは分け合うことを学び、
ジュースを回し飲みしたり、アーンとかしちゃって、互いの心の距離を知る。
人間なんてちょいと不自由なぐらいで、ちょうどいいと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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