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333 安全

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 小学校の通学路にまっすぐな直線になっているところがある。
 五百メートルほどの長さにて、住宅地に隣接しており、かつては川沿いであった道。
 しかし川の方は区画整理のあおりをうけて、一部が埋め立てられ、流れを変えられ久しい。いまではその道がかつて川べりであったことすら知る者とてほとんどない。
 信号もない。
 横断歩道もない。
 歩道はあるが昔につくられた物にて、幅は非常にせまくて大人二人がすれ違えないぐらいしかない。とりあえず法律で義務付けられているから、作っておきましたといった感じ。
 地元の人間にとってはちょっとした間道扱いにて、わりとビュンビュン自動車が通る。
 たまに集団登下校中の一団に無謀な運転をする車が突っ込むというニュースもあり、仮にも通学路にて、これはダメだろうと危惧した大人たち。
 遅ればせながらボタン付きの信号機をつけた。
 が、これは失敗だった。
 自動車を運転する方は信号の色にばかり気が向かい、子どもたちの方も信号の色を過信するように。
 何もなかったからこそ、頼れるのは己自身。
 ドライバーは子どもたちに気をつけていたし、子どもたちも車に充分すぎるほど気をつけていたというのに。
 良かれと思ったのに、結果として接触事故が起きてしまう。
 不幸中の幸いなことにケガはたいしたことなくてすんだものの、学校に我が子を預けている親御さんたちは気が気ではない。
 そこで今度はスピードを落とさせるために、横断歩道の近くに、道幅を狭めるポールと段差が設置されることに。段差といいっても車いすでも楽々上り下りできるていどの短い坂。でも走っている自動車にはこれでも十分な震動となって伝わる。
 心理的圧迫感とガタンとなるので、ドライバーはいやでもスピードを落とすことになるという目論見。
 しかしこれもやはり失敗に終わる。
 ポールは目論見通りにドライバーにプレッシャーを与えた。
 だがそれゆえに注意を引きつけ過ぎた。そちらに目が行くあまり他がおろそかになる。
 人間は視界のすべてをキチンと把握しているわけではない。
 ポールや段差に気をとられて、信号への注意がおろそかに。
 ボタン式にて不定期に切り替わるのもよくなかった。
 常にかわるわけじゃないから、その分が無意識に油断を産む。
 信号、ポール、段差……、それらはドライバーの注意を散らす要因となり、また子どもたちの危機意識の低下をも招き、これまでまるでなかった接触事故を誘発することに。
 大人たちが子どもたちの安全を願って、よかれとした細工のことごとくが裏目にでる始末。
 とく春の季節はもっともいけない。
 道沿いに生えている桜が満開にて、さらに双方の注意を惹いてしまうから。
 こんなことならばいっそ元のままのほうがよかったのでは? という声も起こるが一度設置したものをなかったことにするのはムズかしい。

 そして今日も今日とて、子どもと原付バイクとの接触事故が起こって、警察が出動しており、野次馬らにてちょっとした騒ぎになっている。
 その野次馬の輪に混じっていたのは二人の幼女。
 キャラメル色のくせっ毛のはしがピコンとはねたミヨちゃんと、一日百文字平均にて過ごす省エネなヒニクちゃん。
 事故はたいしたこともなく、ギリギリ接触は避けられたものの、おどろいて転んだ子どもがグキっと足首をひねったとかで、念のために警察を呼んだんだとか。
 バイクで駆けつけたお巡りさんも「またか」といった顔をしている。
 それぐらいにここでの事故は多い。そしてもっとも多いのが自動車による対人事故ではなくて、自転車やオートバイによるモノだという皮肉。

「自動車の事故をなくそうとしたのに、ちがう事故がふえるってのもヘンな話よね」とミヨちゃん。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「事故防止とか渋滞解消の方法、どれも成果はイマイチ」

 ETCをつけたら高速道路から渋滞が消えるとかほざいていたのは
 どこのどいつだ? 魔のカーブに魔の交差点などの事故多発地帯。
 百あれば百の原因があり。なんだかんだで人間が一番の原因だと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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