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331 ハーレム

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 小学校二年生の読み物と言えば、絵本に児童書、あとはなんちゃら図鑑とか漫画ぐらい。
 だけれども早熟な子というのは、いつの時代にもいるもので、クラスにもチラホラと顔を見せるもの。
 ミヨちゃんのクラスで云えば、女子ではオシャレ番長のアイちゃんが、断トツで頭一つも二つも抜けている。
 もとよりこの年頃の男女比では、圧倒的に女子がうえ。
 ココロもカラダも……。
 だからとて男の子の中にも性格によっては、バカ騒ぎする者もいれば、落ち着いた雰囲気を好む子もいるわけで、そんな子が学校にライトノベルなる書籍を持ち込んだことから、ちょっとした騒動に。
 表紙はマンガみたい。だけれども中味は文字ばかり。そりゃあ、イラストも数ページはあるけれども、まあ、世間一般的には小説に分類されるシロモノ。
 学校にはお菓子やマンガなんぞを持ち込むのはご法度。
 でも本は禁止されていない。だからライトノベルもなんら問題はない。
 でも表紙が表紙なので誤解をまねく。

「あー! いけないんだぁ、せーんせいに言ってやろう」
「ちがうよ。これは……」

 といった具合に毎回毎回、釈明に追われる。
 のんびりと読書を楽しみたいから持ってきたというのに、「なんだアレ」と男の子たちが寄って来るものだから、ちっとも落ち着けやしない。
 だったらブックカバーでもつけておけばいいものを、と考えがちだがそれもムダ。どのみちつつかれる。「何を読んでいるの?」とたずねられて「異世界ファンタジーなんだ。あっちの世界に行った主人公が活躍して」なんぞと説明すれば、みんな大好きファンタジーなもので、なお喰いつかれる。
 興味はある。漫画やアニメやゲームも大好き。だけど読書はまだまだ敷居が高い。
 そんな微妙なお年頃の小学二年生にとって、それは未知なる領域。
 ちょいと覗いてみたいとおもうのも無理からぬこと。

 教室でのそんな騒ぎを遠目に眺めていたミヨちゃん。

「あれってタカ兄ちゃんも読んでるやつだね。女の子がバンバン登場しては、次々に男の子にメロメロになるの」
「いわゆるハーレム展開だね。主人公に助けられた女の子がホレちゃうんだっけ? でも少女マンガでも似たようなの多いじゃないの」

 ミヨちゃんの言葉にそう声をあげたのはリョウコちゃん。
 見目麗しい王子様たちに囲まれるヒロイン。
 そんな展開もまためずらしくはない。というかかなり多い。
 だからこその先の発言をリョウコちゃんがしたわけだが、これに「チ、チ、チ」と人差し指を振ってみせたミヨちゃん。

「たしかに男性向けにも女性向けにもハーレムはある。でも男子のそれと女子のそれとではかなり内容がちがうのだよ」

 いきなりエラそうな口調になったミヨちゃんが語るのは男女による展開の違い。
 男の子のバージョンは、恩義を受けたヒロインがコロリと主人公にホレちゃう、通称チョロインだらけにて、最終的には一夫多妻、もしくはなぁなぁで済ませて、あえて結論をにごすパターンが非常に多い。
 しかし女の子バージョンでは、そもそもヒロインに王子たちがホレるまでの過程がしっかりしている。王子たちが抱えているコンプレックスやトラウマなどと寄り添い、ともに諸問題と対峙し、苦難を乗り越え、あるいは励ましてもらったりして、一筋の光明となり、やがて明けの明星のごとく燦然とまたたき、気がつけばヒロインが目の離せない存在になっていく。ヒロインが王子の中で特別な存在と意識してからは、バリバリに働きかけることも多い。王子間でのバッチバチの恋のさや当てが繰り広げられ、最終的にヒロインが誰を選ぶのかで、読者はハラハラさせられる。つまりこちらでは結論をにごさない。ラストばバシッと決める。一妻多夫な結末なんて、まず認められない。
 女はその手の八方美人をかなり嫌う傾向にあるから。
 さいきんでは乙女ゲームとかでハーレムエンドとかあるけど、あれはあくまでヒロインが自分の分身だから受け入れられているにすぎない。でも少女マンガのヒロインはあくまで別人格。なまじキャラが立っている人気作になればなるほど、ラストに下手を打つと恐ろしい結果に……。

 などと力説するミヨちゃんの少女マンガ愛がとまらない。
 そして途中から話についていけなくなったリョウコちゃんが、遠い目をしてる。
 そんな二人の様子を間近で眺めていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開く。

「たとえ助けられても、惚れない確率のほうがうんと高い」

 ピンチになりました。助けられました。助けてくれた人がいい人でした。
 しかもイケメンでお金持ちで独身フリー。そして二人はイイ感じに。
 まだ宝くじで一等当選の確率の方が信じられると思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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