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324 辞書
しおりを挟む国語の授業にて。
本日は言葉の意味を知りましょうとのテーマにて、ヨーコ先生が図書室より借り出してきた辞書とにらめっこ。班ごとに調べものをすることに。
これを期に、辞書というモノに実際に触れてみて、その使い方を学ぼうという意図も含まれたこの授業。
とはいえ各班に一冊ずつなので、一度に調べられるのは一人きり。あとは調べた内容をノートに写しながら、やいやいとお喋りするぐらい。
各自、興味のある言葉を三つ選んで、調べてみるという課題。
ふつうにやっていれば、たいして時間がかかることもないのだけれども、そこはそれ、まだ小学二年生なので。いつもいつもいい子でいるわけじゃない。
で、辞書を手にした男の子たちが、おそらくは一度は通るであろう道を歩きだす子があらわれたから、とたんに教室内がにぎやかに。
辞書のページを真剣にめくっていたとおもったら、目当ての項目を見つけて、ケラケラと笑い出す男の子たち。
彼らが何を知らべていたのかというと、公序良俗に反する言葉。
いわゆる下ネタである。
まぁ、下ネタといってもシンプルなもので、マイルドなお子ちゃま仕様。
酔っ払ったヨーコ先生が教師仲間らと口にする内容に比べたら、それこそ天使の微笑みレベルにすぎない。
だからとてそれを理解するのは、みんながもっと大人になって、人生にうす汚れてくたびれてから。
まだまだ穢れを知らぬ女の子たち。
これを受けて、その視線がいっきに冷ややかになったのは言うまでもない。
「男子ってあの手のネタが好きだよなぁ。うちの弟もしょっちゅう笑っているよ」
幼稚園の年少の弟がいるリョウコちゃん。弟の面倒もしっかり見ている出来るお姉さんは、とくに毛嫌いすることもなく寛容な態度をみせている。
「わたしはサッパリだわ」
「わたしも意味がわからん。というかアレを笑いとはみとめられない」
そう言ったのはアイちゃんとチエミちゃん。どちらも男兄弟がいないせいか、いまいち理解しがたいと小首をかしげるばかり。
「ミヨちゃんはどう?」
チエミちゃんから話をふられたミヨちゃん、うーんと考え込む。
ミヨちゃんのところは二男一女の三兄妹。上は大学院生、次が高校生と末妹とはそこそこ歳が離れている。それゆえにどうしても感覚に差が生じるのは仕方のないこと。
「うーん、わたしもイマイチかなぁ。でもまえにタカ兄ちゃんの辞書で、ブラジャーのところに印が入っているのは見たことあるよ」
思春期のやるせない想いが蛍光ペンを走らせたのか? あるいは同級生の悪ふざけか? 真相は藪の中ながらも、妹のおもわぬ暴露によってヤマダ家の次男坊の株が、そこそこ暴落したのはまちがいあるまい。
これらのことから、「男はいくつになってもバカ」という結論に達した幼女たち。
するとこの結論を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「下ネタ、元は寄席の艶話」
世界最古の下ネタは紀元前千九百年頃にまでさかのぼれるそうな。
真偽のほどはともかくとして、かの偉大なモーツアルトも大好物。
きっと人類初のギャグもコレだったと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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